研究課題/領域番号 |
16K04413
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研究機関 | 沖縄大学 |
研究代表者 |
吉川 麻衣子 沖縄大学, 人文学部, 准教授 (80612796)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 見える物語綴り法 / 戦争体験 / 沖縄 / 共創 / ナラティヴ / 物語 / 高齢者 / 地域臨床 |
研究実績の概要 |
沖縄戦体験者のニーズが発端となった「見える物語綴り法」の開発に向けて,平成25年度より実践を続けてきた。しかし,新しい方法論として提示するためには実践例の蓄積と,理論的裏付けを加えていく必要がある。また,沖縄戦体験者の多くが高齢者福祉施設に入所していることを鑑み,臨床現場での実践を通して汎用性を検討する必要がある。そのため,施設従事者や家族が実施できるよう方法論を洗練することが本研究の目的である。今年度は,「これまでの『見える物語綴り法』の実践例の再分析」と「『語らう会』参加者の新規12事例の実践」に取り組んだ。 1.平成27年度までに実践を終えた20事例のうち,存命の10事例の実践過程を見直した。本実践は,1事例につき2,3週間に1回のペースで実施し,計18~35回を要する。高齢者福祉施設等で実践する際には20回程度で終結できるような方法上の工夫が必要であることが明らかになった。本実践は,短時間ですぐに効果が出る簡便な手法ではないが,業務内で「使える」方法の開発に向けて今後更に検討する。 2.実践終了者10名に,「可視化すること」が語りにどのような影響を及ぼすのかについてインタビュー調査を実施した。「可視化すること」により,「体験過程(ジェンドリン,1969)」が深化することが明らかになった。理論的検証は平成29年度中旬以降に行う。 3.新規12事例のうち4事例は途中で逝去されたため,現在8事例について実践を継続している。平成29年度下旬を目途に終結する予定である。研究参加者の実践途中での逝去は,研究計画時において予想されていたことだが,非常に残念である。 4.申請者が平成11年度より継続して取り組んできた沖縄戦体験者との一連の研究成果が,平成29年度中に書籍として出版されることになった。そのため,平成28年度の直接経費の約半額を未使用とし,平成29年度に繰り越した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.本研究の「サブテーマ1:これまでの『見える物語綴り法』の実践例の再分析」は,計画通り平成28年度中に終了した。 2.本研究の「サブテーマ2:『語らう会』参加者の新規12事例の実践」は,平成28年度中旬から29年度下旬までの期間で終了する計画である。平成28年8月より実践を開始し,現時点で4名が逝去し,8名との実践を継続中である。来年度末を目途に終了する予定である。 3.本研究の「サブテーマ4:高齢者福祉施設における実践」のうち,「a.実践協力者(入所高齢者)・施設との関係づくり」を行う過程で,「b.施設で実施する際の留意点の整理」を行っている段階である。 4.本研究の成果発表として,平成28年7月に米国ニューヨークで開催されたWorld Association for Person Centered & Experiential Psychotherapy & Counselingにおいて,The Psychological Impact and Posttraumatic Growth of Okinawan Survivors of the Second World War: A 15-year Longitudinal Study.という題目で口頭発表した。 5.本研究の成果発表として,平成28年8月に福岡県で開催された日本人間性心理学会において,「『戦争体験を糧に生きる』ということ:沖縄での15年の縦断的調査を通して」という題目で口頭発表した。
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今後の研究の推進方策 |
1.現時点では,平成29年度以降の研究計画に大きな変更はない。予想されることとしては,「サブテーマ2:『語らう会』参加者の新規12事例の実践」の研究参加者が実践途中で今後も逝去される可能性があるという点である。その場合,新たに研究参加者を募ることも考えられるが,本研究は参加者の主体性を第一に考えているため,少数事例になったとしても成果をまとめられるよう分析方法等を検討する。 2.平成29年度は,新規8事例の実践を進めつつ,「サブテーマ3:『見える物語綴り法』の理論的な検討」に着手する。当初計画していた「心的外傷後成長(PTG)」の概念による説明可能性を探る。加えて,心理療法の一手法であるフォーカシングにおける「体験過程理論」による説明可能性を探る。「可視化すること」によって,研究参加者の語りがいかに変容・深化していくのかを実践で手ごたえを得たものの,「体験過程スケール」などの客観的指標を用いて評価することも試みたい。さらに,理論的検証を行う上で,「オープンダイアローグ」の理論・手法も有益であることが期待できるため,平成29年度にはその発祥地であるフィンランドへの研修を予定している。 3.平成29年度中に,本研究の成果も含めた書籍が出版される。その費用が当初計画よりも増額となり,平成29年度の直接経費の一部を「研究成果出版費」に充当することとした。それに伴い,沖縄県内離島での研究経費として計上していた旅費はすべて自費とする。 4.当初計画では,Web上での研究成果の発信を予定していたが,本研究の性質上,研究倫理の観点からWeb上での成果発信は難しいと判断せざるを得なくなった。そのため,研究計画を変更し,成果は研究論文で発信することに努め,書籍として出版することとした。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成11年度より継続して取り組んできた沖縄戦体験者との一連の研究成果が,平成29年度中に書籍として出版されることになった。「研究成果出版費」が当初計画よりも増額となったため,平成28年度の直接経費の66万円を未使用とし,平成29年度に繰り越した。
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次年度使用額の使用計画 |
「研究成果出版費」が当初計画よりも増額となり,平成29年度の直接経費の一部(34万円)を出版費に充当することにした。それに伴い,沖縄県内離島での研究経費として計上していた旅費(約30万円)はすべて自費とする。
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