研究課題/領域番号 |
16K04419
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
一谷 幸男 筑波大学, 人間系, 教授 (80176289)
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研究分担者 |
山田 一夫 筑波大学, 人間系, 准教授 (30282312)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 記憶 / 海馬 / 自発的物体再認 / ラット |
研究実績の概要 |
生活体は新奇な刺激に対して興味を示し、見慣れた刺激よりも多く探索する。この傾向を利用して記憶能力を調べるのが自発的物体再認テストである。本研究の目的は、ラットの自発的物体再認テストを用いて、訓練や特別の動機づけをせずに海馬の機能を解明することである。アリーナ内の対角線上の2か所に同一の物体を配置し、ラットを一定の時間自由に探索させ(見本期)、その後一定の時間(遅延期)の経過の後、テスト期には片方の物体のみを新奇な物体に置き換え、2つの物体(見慣れた物体と新奇な物体)に対する接近(探索)行動を記録し、弁別率(新奇物体への探索傾向の強さ)を評価した。近時記憶と遠隔記憶における海馬グルタミン酸受容体の1種、N-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容体の関与を調べるため1日から6週間の遅延時間条件を設定し、テスト期(記憶の検索過程)の直前に、あらかじめ両側海馬に麻酔下でカニューレを装着したラットに、NMDA受容体拮抗薬AP5を投与して受容体を一時的に不活性化した。 その結果、以下のことが見出された。 1.1日から1週間の遅延ではNMDA受容体を遮断しても新奇な物体への探索の方が多いが(弁別率 65%以上)、3週間の遅延ではNMDA受容体を遮断すると弁別率が50%に減少してしまうこと。 2.見本期の時間をさらに短く設定すると、NMDA受容体遮断の効果が1週間の遅延でも出現すること。 以上から、海馬のグルタミン酸NMDA受容体が自発的物体再認の近時記憶の検索には重要ではないが、遠隔記憶の検索にとって重要であること、さらにその役割は記憶痕跡が弱まったときの方が大きい可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
自発的物体再認テストを用いた際のグルタミン酸NMDA受容体の記憶への関与がこれまで議論されてきたが、比較的長い時間の遅延条件下では重要な役割を果たすことが、薬物投与実験で確認できた。
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今後の研究の推進方策 |
自発的物体再認の遠隔記憶検索におけるグルタミン酸NMDA受容体の記憶への関与が確認できたので、当初の予定通り、今後はまず、自発的物体再認を改変した自発的「物体位置」再認テストを用いて、海馬の蛋白質合成およびmRNA合成の役割を検討する。さらにまた、ラットが出会った刺激の順序(より新しいか、より古いか)を記憶できるという証拠も示されてきたので、時間順序記憶における海馬とグルタミン酸受容体の関与を検討するため、自発的物体再認を利用して時間順序記憶のテストを行う。
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