生活体は新奇な刺激に対して興味を示し、見慣れた刺激よりも多く探索する。この傾向を利用して記憶能力を調べるのが自発的物体再認テストである。本研究の目的は、自発的物体再認テストを用いて、訓練や特別の動機づけをせずに海馬の機能を解明することである。自発的物体再認場面で、ラットはより後で(時間的に新しく)出会った刺激に比べ、より前に(時間的に古く)出会った刺激を長く探索するという傾向を利用し、時間順序記憶における海馬グルタミン酸N-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容体の関与を調べた。 アリーナの対角線上の2か所に同一の物体を配置し、ラットを3分間自由に探索させ、その後2分間待機ケージに置いた。第2の物体を同様に3分間探索させ、再び2分間待機させた。これを繰り返して、第5の物体まで提示した(見本期)。遅延期(2分間)の後、テスト期では、見本期に示した5つの物体のうち2つを選んで対角線上に置き、ラットを3分間自由に探索させて、各物体に対する接近(探索時間)を測定した。 受容体の一時的な不活性化をするためのカニューレ埋め込み手術を行い、見本期の直前にNMDA受容体拮抗薬(AP5)または溶媒をランダムな順で両側の背側海馬に投与し、テスト期の物体探索行動を比較した。その結果、薬物の用量依存的に弁別指標[(より古い物体の探索時間 ー より新しい物体の探索時間)/物体探索時間の合計 ]が低下した。したがって、時間順序記憶に海馬グルタミン酸NMDA受容体が役割を果たす可能性が示唆された。
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