研究実績の概要 |
環境的文脈文脈依存再認のメカニズムを説明できる原理を探り,体系的な理論を構築することを本線とする。 これまでの実験結果から,環境的文脈依存再認の機構について,以下のような説明原理が浮かび上がっている。(1) グローバル環境的文脈(場所,BGM,匂いなど)は,アウトシャイン説(Isarida, Isarida, & Sakai, 2012)によって説明できる。(2) 局所的環境的文脈(単純視覚文脈,背景写真,背景色)の場合,手がかり過負荷が生じるとき,ICE理論(Murnane, Phelps, & Malmberg, 1999)で説明できる場合が多い。手がかりが過負荷にならないとき,アウトシャイン説で説明できる場合が多い。(3) ビデオ文脈の場合,手がかり負荷が小さいとき局所的文脈として,手がかり負荷が大きいときグローバル文脈として機能する可能性が高い。 (1) の点については,2016年度に論文化し,Journal of Memory and Language (Impact Factor 5.125) に投稿し,書き直し再審査になっている。実験計画やデータの不備は指摘されず,論文としてのプレゼンの問題のみが指摘されているしたがって,後2回くらいの改稿で,採択に持ち込める見通しである。(2) については,引き続き実験を重ねており,2017年度中に論文化し,国際誌に投稿する予定。(3) についても,かなり実験を重ねてきて,論文化できる見通しであった。ごく最近になって,われわれが集めてきたデータセットとは異なる結果(Shahabuddin & Smith, 2016, Journal of General Psychology,Impact Factor (IF) 1.00)が報告されていることを知った。この点をもう一度再検討し,さらに精緻化した理論化を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究代表者が,前任校を定年退職し,新しい大学に異動した。また,代表者の指導学生(博士課程修了者)も,同じ大学に就職したため,研究分担者に加えた。実験プログラムの作成を中心に,研究に参加している。新しい大学では,まだ研究室の学生が居ないため,前任校の大学院修了者と,代表者の講義の社会人聴講生(民間企業の定年退職者)に実験実施を委任した。予想以上に,二人の連携が良く,期待を遙かに上回るデータを収集することができた。 昨年末には,グローバル環境的情報(場所,匂い,BGM)の研究結果をまとめて論文化した。内容は,(1) 再認弁別で文脈依存再認が生じる場合,Hit率で正の文脈依存効果,FA(false alarm)率で負の文脈依存効果が生じる。(2) 再認弁別で文脈依存再認が生じない場合,Hit率とFA率の両方でまったく文脈依存効果が生じない。さらに,(3) グローバル文脈依存再認の効果サイズは,DC条件のHit率(項目手がかり強度の推定値)への明確な負の回帰を示した。(5) この結果は,アウトシャイン説でよく説明できるが,現在最も有力とされているICE理論(Murnane, Phelps, & Malmberg, 1999)では説明不能である。論文はJournal of Memory and Language(IF 5.125,心理学では最高峰)に投稿した。書き直し再審査となり,現在改稿中である。審査内容からして改稿すれば採択される見通しである。当初は,この雑誌で不採択になり,その際のコメントをもとに改善してもっとIFの低い雑誌へ投稿する予定であった。それが再審査に持ち込めたのは望外であり,当初の計画以上に進展していると言える。 さらに, Quarterly Journal of Experimental Psychology(IF 2.14)に1論文,国内査読誌に2論文掲載した。
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