研究実績の概要 |
社会的存在であるヒトの記憶は,社会的文脈からの影響によって変化する.しかし,従来のヒト記憶に関する研究では,ヒトの記憶過程に対しての社会的文脈からの影響を考慮することなく,十分にコントロールされた実験室環境においてヒトの記憶メカニズムを検証していることが多く,実際に社会の中で生活しているヒトの記憶メカニズムを適切に評価できているのかについては疑問も多かった.そこで本研究では,先行研究においてこれまでに考慮されることが少なかったヒト記憶における社会的文脈からの影響とその神経基盤について,健常者を対象とする機能的磁気共鳴画像(fMRI)から解明することを目的とした.また,脳損傷患者を対象として,社会的場面における困難さが記憶障害をはじめとする認知機能障害の程度とどのように関連するのかについても検証することで,fMRI研究において認められた神経基盤の機能的妥当性についてもアプローチした.
最終年度までに実施した研究全体の成果として,社会的文脈における感情生成や社会的文脈における自己参照効果についてのfMRI研究について,それらの結果がCognitive, Affective, and Behavioral Neuroscience誌やHuman Brain Mapping誌に掲載されるなど,一定の成果を得ることができたと考えている.また,脳損傷患者を対象とした研究についても,複数の国際学会を含む多くの学会にて発表され,投稿論文の準備も着実に進められている.以上のことから,本研究全体を通して,研究計画はおおむね順調に進めることができたと考えている.
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