研究課題/領域番号 |
16K04429
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研究機関 | 福島県立医科大学 |
研究代表者 |
井口 善生 福島県立医科大学, 医学部, 助教 (20452097)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 意思決定 / 目標指向性⇔習慣 / 道具的学習 / 背側線条体 / 青斑核ノルアドレナリン投射系 / 前帯状皮質 / Ionotropic Receptors / グルタミン酸開閉性塩化物イオンチャネル |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,青斑核(LC)から前帯状皮質(ACC)へ投射するノルアドレナリン系が背側線条体の内側部と外側部の機能的バランスを制御し,報酬に基づく意思決定のモードシフト(目標指向性⇔習慣)を実現する,という仮説を検証することである。 この目的達成のために,①LCニューロンの活動操作(促進と抑制)を実現する新たな化学遺伝学的ツールの開発と,②げっ歯類モデル動物を用いて意思決定のモードシフトを検討するための行動心理学的手法の開発,③上記2つを併用した行動神経科学の実験,の3つのステップを解決する必要があった。 平成28年度はショウジョウバエより単離したIonotropic Receptors (IRs: IR84a/IR8a)がフェニル酢酸刺激により陽イオンを透過する性質を利用し,IRsをマウス青斑核特異的に発現誘導してフェニル酢酸を近傍に注入した結果,ACCにおける細胞外ノルアドレナリン濃度の上昇を確認した(①の促進の系の確立)。 平成29年度は28年度の成果を発展させることを目的とし,リガンド末梢投与により脳内に発現したIRsを通じて標的細胞の活動性を上昇させる技術を開発した(①の促進の系の展開)。また,標的細胞の活動抑制技術の開発を目指し,センチュウ由来のグルタミン酸開閉性塩化物イオンチャネル共役型受容体(GluCL)の有効性を検証した(①の抑制系の確立)。さらに,ラットにおいて意思決定のモードシフトを検討するための行動心理学的タスクの妥当性を検討し,適切なパラメータを得た(②の検討)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,研究実績概要に示した3つのステップのうち①および②のクリアを目指した。 ①については,リガンド(フェニル酢酸)をメチルエステル化することで脳血流関門の通過能を上昇させ,脳内のエステラーゼによりカルボン酸体に戻ったフェニル酢酸がIRsを通じてLCニューロンの活動を上昇させることを,ACCにおける細胞外ノルアドレナリン濃度の上昇を通じて確認した。 また,標的ニューロンの活動抑制ツール(GluCL)の機能確認のために,これをAAVベクタとDrd2-creラットを併用することでラットの中脳ドパミン細胞に発現誘導し,リガンド(イベルメクチン)を中脳腹側被蓋野(VTA)に微少注入することで,ラットの報酬獲得に対するモチベーションが低下することを行動心理学的な手法により確認した。 ②については,餌報酬により強化されたラットの道具的行動に対し,食中毒症状を誘導する塩化リチウムを報酬と対呈示することで報酬価値の低下操作をおこない,道具的行動の制御する意思決定のモードが目標指向性モードか,習慣モードかを推定するための行動タスクにおけるパラメータ(訓練セッション数およ塩化リチウムの腹腔投与量)を確定させた。
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今後の研究の推進方策 |
来年度(平成30年度)は最終年度であるため,研究実績概要に示した3つのステップのうちの③を達成することが最終目標となる。 平成28~29年度に達成した標的細胞の活動性制御技術につていは,抑制系(イベルメクチン-GluCL)はまだLCノルアドレナリンニューロンに適用できていない。GluCLシステムを用いたLCニューロンの活動抑制の系の確立を急ぐ。 さらに,IRsおよびGluCLsをLCニューロンに発現誘導したラットを作成し,餌報酬により強化された道具的行動に対する餌報酬の価値低下の効果を実験心理学的に検証することで,LCニューロンの活動と意思決定のモードシフトの関係を解明する。 時間的余裕があれば,LCニューロンの活動操作が背側線条体のニューロン活動に及ぼす影響について,最初期遺伝子(c-fos, Arc/Arg3.1, Npas4等)の発現を指標として検討し,LCニューロン-->背側線条体-->意思決定のモードシフト,という一連のプロセスの統一的理解の糸口をつくる。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度までの研究成果を国際学会(Society for Neuroscience等)で発表する予定だったが,研究成果の一部を特許申請する可能性が生じた。これは本報告の公開を2021年まで延期するのと同じ理由によるもので,動物の脳内に発現誘導したIRsを末梢投与したリガンドによって刺激し,標的神経細胞に活動亢進を誘導するための技術である。そのため,急遽国際学会における発表を取りやめることを決め,そのための予算を次年度使用とした。 この次年度使用額は,平成30年度の行動実験のための消耗品の購入と,特許申請する予定のない開発技術の国内学会における発表のために使用することとする。
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