研究課題/領域番号 |
16K04430
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研究機関 | 埼玉医科大学 |
研究代表者 |
菅 理江 埼玉医科大学, 医学部, 講師 (10342685)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 刻印付け / ヒヨコ |
研究実績の概要 |
初期学習における記憶の固定化の仕組みを明らかにしたい。臨界期を持つ初期学習はその発達初期に獲得した記憶が長期にわたって保存され、成熟後の行動にも影響を与えることが知られている。本研究では誕生直後の初期学習である刻印付けをもちいてそのメカニズムを探る。刻印付けとはニワトリなどの早成鳥類で、孵化直後に見た物体に対して社会的偏好を形成する現象である。臨界期の存在が特徴的であり、獲得した偏好は成熟後の性選択にも影響を与える。ヒヨコの刻印付けでは固定化(consolidation)のプロセスはその対象に暴露されてから8-12 時間後に起こる。 これまでの申請者らの研究で明らかにした、刻印付けの脳部位特異的な神経細胞活性とグルタミン酸受容体の分布特性に着目し、行動と脳の可塑性を関連付けることが具体的な目標である。学習獲得に必須の脳部位IMM (intermediate and medial mesopallium) のうち固定化に関連すると考えられる右側IMM の神経細胞活性のタイミングを、情報の獲得時の神経細胞活性と区別して明確化したいと考えている。このために行動実験(刻印付けの獲得)の安定化とその変化のタイミングと脳組織変化の対応が必須となる。 本年度は研究計画の通り、行動実験装置・プロトコルの確立と行動実験の基礎データの収集、脳組織サンプルの採取を中心に実験を行った。ヒヨコの安定的な孵化と運動機能の測定が可能になり、計測可能な刻印付け現象が確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では新たに行動実験装置をくみ上げ、液晶モニターを用いた刺激装置を用いた実験を行うため、刺激強度と刻印付け成立のための最短時間等基本的なデータを調整する必要がある。本年度は装置の組み上げと行動実験のパラメータの確認と先行研究との比較、および脳の免疫組織科学的検討が予定されていた。しかしながら、2つの問題が生じ、今年度の進捗は行動実験の確認と脳サンプルの採取までにとどまった。 本実験では孵化時期の安定と分散のために、保冷庫をもちいて低温での有精卵の保管と孵卵器への時期をずらした移動を行っているが、保冷庫の故障により、極端な孵化率の低下が続き、必要な個体数の確保と原因究明および装置の修理に時間を要した。また想定よりもヒヨコの脚力に対する装置の重量が重かったため、仕様の変更を行い、装置の作り直しをしたという問題があった。 この二つの事象は研究計画の遂行の遅延につながったが、装置の最適化と孵化プロトコルの安定化のためには必要な要素もあり、今回装置やプロトコルの見直しを行うことで、29年度、30年度に起こったであろう問題の予防にある程度貢献できたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
29年度は28年度の成果を踏まえ、行動実験とその脳サンプルをもちいた免疫組織科学実験をすすめていく。即初期遺伝子c-fos およびArk 抗体陽性細胞とのco-localization を刻印付け後2(獲得直後), 8(固定化中), 24 時間(固定化後)で比較を予定しており、現在すでに採取したサンプルとともに解析を続ける。2種類の刺激を経時的に提示する、二重学習の行動実験を先行してすすめ、予想される問題のひとつである、「固定化にいたるまでのプロセスが長いため、ばらつきが大きく、時間を基準としたグループでも差が埋もれてしまう可能性」について検討をすすめたい。実験群と統制群を対として、第一刺激直後の学習獲得の度合い(提示刺激に対する偏好)と固定化後の偏好の対応だけでなく、第二刺激提示による現象の遅延や編好の抑制などの干渉がみられないか検討していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度の大きな支出予定は行動実験装置であるが、進捗状況に述べたとおり、装置の設計変更等が生じたため、当初予定していた実験箱の変更やサイズの変更に伴う周辺機器の変更があり、購入が28年度内に間に合わないものがあった(実験そのものはプロトタイプ装置や現存の機器を転用して行っていた)。安定した実験運用のために、専用の制御装置刺激提示機器は必須のため、確定したサイズに合わせた物を29年度に購入する予定である。 また脳サンプルの免疫組織科学的検討まで到達できなかったため、抗体類の購入を見合わせたため、予定より消耗品の購入が少なかった。
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次年度使用額の使用計画 |
専用装置、周辺機器の購入は必須なため、次年度使用額として生じた予算はそのまま行動実験装置購入に使用される予定である。また抗体および染色キットの購入も29年度にまとめて購入するため、時期は遅れているが計画通りの使用計画である。
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