個体発生初期の記憶の形成とその固定化のメカニズムについて検討している。刻印付けはニワトリなどの早成鳥類で顕著にみられる現象で、孵化直後に見た物体に対して排他的な社会的偏好を形成する。この学習には臨界期があり、獲得した偏好は長期にわたって影響を与えることがわかっている。 これまでの実験条件におけるヒヨコの刻印付けでは、固定化(consolidation)のプロセスはその対象に暴露されてから8-12 時間後に起こると考えられ、このタイミングでヒヨコの睡眠を妨害すると、刻印づけ後に確認された偏好が翌朝には低下あるいは維持されないケースが観察される。この学習獲得に必須の脳部位IMM (intermediate and medial mesopallium)では、獲得時の反応とは独立に、この時期に様々な神経可塑性に関わる変化が観察されている。これまでの申請者と共同研究者の研究で明らかにした、刻印付けの脳部位特異的な神経細胞活性に着目し、行動と脳の可塑性を関連付けたい。 昨年度までの研究で、獲得時には両側のIMMで即初期遺伝子c-fosが発現する神経細胞数が一過性の増加を示したが、暴露後8-12時間後の変化では左側のIMMで有意な増加があり、この増加が睡眠の妨害で打ち消されることが明らかになった。右側IMMは左側よりも増加率が低いがでは8.8時間から10.8時間の間で増加傾向にあり、左側よりも後に増加のピークがある、つまり睡眠の阻害によって抑制される、神経可塑性をともなう事象が左側と独立に起きている可能性があると考えられる。 上記の解析に加えて、固定化前の新奇刺激の介入による干渉の効果を行動実験で検討し、短時間の暴露条件では各刺激へのアプローチ量の変化に影響が見られることがわかった。
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