T字型迷路におけるラットの空間選択を用いた前年度までの接近行動実験の結果に基づき、最終年度である本年度は拘束器の扉開放潜時および開放出現率を測度とした実験を行い、援助行動の発現と飼育環境・社会性の高低・空間課題成績との関連を検討した。行動発現におけるHPA軸の関与を調べるために、糖質コルチコイド合成阻害薬であるメチラポンを投与する群を設けた。その結果、拘束器の扉の開放潜時において、孤立飼育された被験体のほうが援助行動に優れ、またメチラポンによってHPA軸を抑制された被験体のほうが援助行動の発現日が遅くなった。社会性の高低を測定するレジデント・イントルーダー・テストの結果において孤立飼育された被験体の低社会性は示されたことから、社会性が低い被験体の場合にも援助行動においてはストレス反応の高さが発現の主な促進要因となりうることが示唆された。海馬依存性の新奇物体再認課題において成績に群間差は見いだされなかったことから、空間学習成績にはHPA軸の薬理的操作等は影響しないことが示された。前年度までの結果を含め、T字型迷路における空間選択を用いた場合には自発的な援助行動発現が困難なこと、T字型迷路における空間学習成績において松果体ホルモンであるメラトニンが阻害的に作用しうること、HPA軸への薬理的操作は援助行動には影響するが空間認知課題成績には影響を及ぼさないことを見いだし、空間学習にかかわる神経基盤と調節機構について新たな知見を得ることができた。
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