経頭蓋電気刺激とは非侵襲的に微弱な電流を流し、脳機能を調節する方法で、運動機能障害や認知機能障害などの治療やリハビリテーションに有効ではないかと近年着目されている。しかし刺激によって脳の神経活動や神経回路がどのように変化するか、どのようなメカニズムで機能改善が見られるのかなどの詳細は分かっていない。今後より効果的に刺激を行い、運動機能障害や認知機能障害などの治療やリハビリテーションに活用していくためには、刺激によって脳でどのような変化が起こっているかを詳細に明らかにする必要がある。そこで本研究では経頭蓋電気刺激が認知機能に関わる神経回路にどのような影響を与えているかを解明することを目的として、高次認知機能に不可欠な前頭連合野と解剖学的に関連する領域に焦点をあてて研究を進めた。令和4年度は、記憶に重要な役割を果たす海馬と前頭連合野の間の神経回路が経頭蓋電気刺激によりどのような影響を受けるかについてげっ歯類モデルを用いてこれまでに得られたデータをまとめるとともに、新たな計測により実験条件を追加した。以上のデータから論文を作成、投稿し受理された。具体的には、前頭前野への陽極性の経頭蓋電気刺激では、刺激後に長期増強様の可塑的な変化が観察されたが、陰極性の刺激では変化が観察されなかった。また陽極性の経頭蓋電気刺激での長期増強様の変化は、刺激と同時に海馬を活性化させた時にのみ生じることが明らかになった。したがって、経頭蓋電気刺激と、海馬を活性化させる認知課題などを組み合わせることで、記憶に関わる神経回路の情報伝達を促進し、認知機能の改善につながる可能性がある。
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