研究課題/領域番号 |
16K04450
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研究機関 | 宮城教育大学 |
研究代表者 |
吉村 敏之 宮城教育大学, 大学院教育学研究科高度教職実践専攻, 教授 (80261642)
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研究分担者 |
金田 裕子 宮城教育大学, 大学院教育学研究科高度教職実践専攻, 准教授 (30367726)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 学習集団 / 表現力 / 独自学習 / 深い学び / 島小教育 / 船戸咲子 / 玉村小学校 / 巨摩中学校 |
研究実績の概要 |
学習集団を組織して学力を培った、日本の教師たちによる1950~70年代の実践の蓄積をふまえて、今日求められる「深い学び」を実現するため、今年度は次の3点に力を注いだ。 1.「表現力」形成の原理と方法の解明:これからの教育で求められる学力の中でも「表現力」は、探究の過程と成果を他者と交流し、自己の成長を促すものとして重要である。すぐれた実践例として、群馬県島小学校の船戸咲子による学習集団の組織、山梨県巨摩中学校の埴原美枝子による合唱指導を取り上げた。船戸は、国語学習での読解力形成の際に、一人ひとりが自分の解釈を持った上で相互に交流して解釈を深める「独自学習」を重視した。毎時間の授業で、どの子も、間違いを恐れずに自分の考えを表現し、互いの考えを出し合い高め合える集団を組織した。埴原も、生徒の心を解放した上で全員が力を合わせて質の高い表現を追求できる学習集団をつくった。両者とも、集団で取り組める質の高い教材を選び、教材の解釈を深めて授業を展開した。効果をあげた実践の根にある普遍的原理を解明した。 2.生活綴方による学習集団組織の実践例の検討:埼玉県東松山市の中学校教師、岸智が生活綴方、学級集団づくり、サッカー部指導に打ち込み、生徒の「生きる力」を養った、教育実践の足跡をたどるべく、資料の収集を進めた。一人ひとりが日々の生活を文章で表現して自己の生き方を考え、さらに互いの文章を読み合う活動を積み重ね、集団が組織された。 3.学習集団組織の実践を支える教育研究活動の検討:船戸が活躍した島小学校の授業研究は、1930年代の玉村小学校の実践を受け継ぎ、敗戦直後の玉芝教育科学研究会や群馬県教職員組合などの地域の教育研究活動とつながり、発展した。埴原が実践した巨摩中学校では、数学教育の遠山啓、音楽教育の林光など、教育への知見を有する専門家の支援によって「科学と芸術の基礎」となる授業が創られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで研究を進めてきた、玉村小学校、島小学校、巨摩中学校での教育実践について、学力形成をはかる教師の指導の原理と方法の解明が進んだ。特に、教材研究の深化と授業展開の充実との関係について、具体例をふまえた検討が行われた。これからの教育に求められる「深い学び」のあり方への示唆が得られる。 さらに、学校での教育実践記録に加えて、地域や全国の教育研究活動との関連を示す資料を収集できた。すぐれた実践の創出を支えた理論や方法、すぐれた実践の広がりを知る手がかりとなる。
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今後の研究の推進方策 |
日本において展開された、学習集団の組織による学力形成の実践の系譜をたどり、1950~70年代の教育実践史上の意義を解明する。さらに、これからの教育で求められる「主体的・対話的で深い学び」を実現するための指針を得る。二つの点に力を入れて研究を深める。 1.すぐれた事例の検討をふまえた学力形成の原理と方法の解明:基礎学力を培う国語と算数の授業の深化をはかった船戸咲子、「芸術の基礎」になる内容と方法を求めながら合唱指導を行った埴原美枝子、作文を軸として学習も生活も向上する学級集団を組織した岸智。三者とも「表現力」の形成を重視した。それぞれの教師の特徴を明らかにするとともに、学習集団組織の普遍的な原理と方法を探る。さらに「表現力」形成の意義についても考察する。 2.1950~70年代教育実践の今日への継承についての検討:船戸の実践に学んだ大阪の小学学校教師、井出良一が「総合学習」を展開した。群馬県や埼玉県の教師と保育者にも、船戸の仕事は影響を与えている。埴原に合唱指導を受けた生徒が山梨県の小・中学校教員となって「表現力」育成に努める。教職を退いた埴原自身が、地域の学校の要請を受け、現在も児童・生徒を指導する。岸が活躍した東松山市では、中学校での教育を生きる支えとして地域の振興に尽力する人もいる。過去のすぐれた教育実践が今日どのように継承されているかを探る。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由:教育実践の文書資料をデジタル化する際に、想定よりも時間を要したため。 使用計画:当初計画に加えて、資料のデジタル化を進める。
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