研究課題/領域番号 |
16K04456
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
藤井 佳世 横浜国立大学, 教育人間科学部, 准教授 (50454153)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 教育学 / ホネット / ハーバーマス / 人間形成 / 民主主義 |
研究実績の概要 |
ホネットの民主主義公共圏における人間形成思想は、デューイのプラグマティズム思想とドイツの相互主観性思想が接続し形成されている点に特徴がある。それゆえ次の性質をもつ。第一に、ホネットの人間形成思想は、予め設定された人間像に向かう人間形成ではなく、承認を通した脱中心化の形成である。ここでいう承認は、愛と正義のコンフリクトを含む個別性と普遍性を組み込んだものである。第二に、ホネットは、政治的秩序は再解釈や再適応の可能性を常に含むものとして捉えている。再解釈は新しい解釈の可能性でもあり、承認をめぐる闘争の一形態とつながる。この闘争は、例外的な闘争ではなく、常に起こりうる可能性がある。ここに社会は、常にリニューアルされるというデューイの思想を見ることができる。第三に、人間形成思想の展開は、現代の時代把握と深く関連している点である。バウマンは現代を批判理論の困難な時代として捉えているが、ドイツの教育哲学者ストヤノフは、承認と人間形成の関係は今日のポスト伝統的社会において重要であると述べる。ストヤノフは、ポスト伝統的社会では複数の社会文化が交差するため、人間の成熟の社会的課題は、異質で複数な世界の出会いと脱地域の両立にあると述べ、承認による自己の形成と世界の形成に焦点をあてている。この形成は、承認における不正の感情と同様、未だ実現されていないものを知覚する次元から捉えられており、個人の語りによって絶え間なく遂行されるプロセスとされる。第四に、ランシエールとホネットの対話から、ホネットの自己実現論にはアイデンティティ論による自由の問題が含まれている点も明らかになった。ランシエールによれば、ホネットの主体は自己に結びついたアイデンティティを中心としているため、アイデンティティの割当がなされていない者への視点を欠く。ランシエールが提案するのは、主体をアーティストとして捉えることである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ホネットの人間形成思想を民主主義公共圏の観点から捉えることによって新たな視点を獲得することができたと同時に、国内外の研究者との対話から、その思想に内在する問題についても明らかになり、人間形成論の構築における課題が明確になり、おおむね順調に進んでいる。 しかし、国内外のさまざまな研究者と対話を進めるなかで、思想における文化制度的相違に基づく概念の捉え方の違いがより明らかになったため、可能な限り文化的背景を含めた資料解読を進めることで、比較思想の観点が鍵となっている点へ対応する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度の研究成果をふまえたうえで、平成29年度は、教育改革におけるハーバーマスの人間形成思想の考察を通して、民主主義公共圏における新たなコミュニケーションのありかたを提示することを目的とする。そのために、ハーバーマスの教育改革に関連する資料を収集し解読を進める。同時に、平成28年度の研究成果より明らかになった新たな課題である主体の自由の概念をめぐる議論をふまえ、1960年代の教育改革と人間形成論を再考することを進める必要がある。その際、社会化論の位置づけに焦点をあて、ハーバーマスのコミュニケーション論と人間形成思想と教育改革のねじれに着目し研究を推進する。他方で、ハーバーマスの人間形成論に批判的な論稿の解読を進め、それらの特徴の明確化を図り、社会化論とは異なる多様性を内包した民主主義公共圏におけるコミュニケーション論を探究する。
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次年度使用額が生じた理由 |
古書(絶版等)や洋書の購入が当該年度に十分実施できなかったことによる。
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次年度使用額の使用計画 |
古書(絶版等)や洋書の購入は到着時期が不確定なため、可能なかぎり早く積極的かつ計画的に実施する。
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