研究課題/領域番号 |
16K04457
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
岡野 勉 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 教授 (30233357)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 算術 / 国定教科書 / 師範学校 / 分数 / 定義 / 除法 / 計算規則 / 教育内容 |
研究実績の概要 |
(1) 師範学校からの意見報告においてその問題性が指摘されていた教育内容として、分数の定義に注目し、その導入に関する教育実践研究の動向について研究を進めた。 第一に、国定教科書(第2期版)の使用時期に取り組まれた教育実践研究の動向を検討し、それを基礎付けていた分数論(分数の定義・説明に関する基本的立場)として、《学校数学としての分数論》の存在を示した。同時に、その具体的な存在形態について、次の3点に渡る特徴とその成立根拠を解明した。①《分割分数の論理》の論理に依拠した定義から《商分数の論理》に依拠した定義へと進む順序の構成、②《分割分数の論理》に依拠した定義を“易”、《商分数の論理》に依拠した定義を“難”とする難易による区別の設定、③《分割分数の論理》に依拠した定義を主要な方法による定義、《商分数の論理》に依拠した定義を副次的な方法による定義とする、主副による区別の設定。この内、特に、②の成立根拠に問題性が含まれていたこと、また、上記3点はほぼ同じ形で現代の《学校数学としての分数論》の特徴として継承されていることを指摘した。上記の成果については、学会報告および論文の形で発表した。 第二に、上記の研究に続く形で、国定教科書(第3期版および第3期改訂版)の使用時期に取り組まれた分数の定義の導入に関する教育実践研究の動向を示す史料の収集と検討を進めた。検討の結果、この時期においても、《学校数学としての分数論》、《初等数学としての分数論》、2つの立場の存在が確認された。 (2) 師範学校からの意見報告においてその問題性が指摘されていた教育内容として、分数除法の計算規則に注目し、国定教科書における説明の内容を、その使用時期に取り組まれた教育実践研究の動向と関連付けた形で検討した。その結果、《逆数》の定義の位置に注目する方法が、この時期の動向を解明する有効な方法ではないかとの着想を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1) 師範学校からの意見報告においてその問題性が指摘された教育内容として、分数の定義、分数除法の計算規則を選定し、当該の教育内容について、国定教科書に関する検討、および、国定教科書の使用時期に取り組まれた教育実践研究の動向を示す史料の収集とその内容に関する検討がおおむね終了した。 (2) その結果、現在においては、検討の成果を整理して発表することが可能な段階に至っている。 (3) 本研究の構想当初においては、研究の対象を、国定教科書(第2期版)とその使用時期に限定していたが、その特徴を明確かつ具体的に示すためには、国定教科書についても、教育実践研究の動向についても、その前後、すなわち、第1期版、第3期版、第3期改訂版とその使用時期を対象に含める必要性が明らかになった。これにより、現在においては、構想当初から対象を拡張した形で研究を進めている。 (3) 前年度においては十分に取り組むことができなかった教育実践研究の動向を示す史料の調査と収集を国立教育政策研究所図書館において実施した。合わせて、附属図書館を通して他大学への複写依頼のサービスを活用した。収集した資料の検討は有効な知見の獲得につながっている。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 師範学校からの意見報告において問題性が指摘される教育内容として、引き続き、分数の定義と分数除法の計算規則に注目し、教育実践研究の動向と国定教科書の改訂との関連に関する研究の総括へと研究を進める。総括が終了した課題から、順次、学会発表、論文執筆を進める。 (2) 分数の定義については、国定教科書(第3期版および第3期改訂版)の使用時期に取り組まれた教育実践研究の動向を、《学校数学としての分数論》、《初等数学としての分数論》、2つの立場から検討し、その成果を学会において発表する。また、今年度の実績と合わせて、国定教科書の改訂と教育実践研究との関連を、第1期版から第3期改訂版までの時期を通して、総括的に解明する課題へと研究を進める。 (3) 分数除法の計算規則については、《逆数》の位置に注目する方法により、①まず、国定教科書における内容の改訂過程に関する検討を進める。②次に、同じ方法によって、教育実践研究の動向に関する検討に取り組み、国定教科書の改訂との関連を明らかにする。なお、国定教科書については、第2期版だけでなく、第1期版、第3期版、第3期改訂版にまで対象を拡張する。それにより、第2期版が備えていた特徴を具体的かつ明確な形で示すことを試みる。③その結果をベースとして、分数除法の計算規則に関する説明に対象を限定して、国定教科書の改訂と教育実践研究の動向との関連を総括的に解明する課題へと研究を進める。 (4) 師範学校からの意見報告においてその問題性が指摘されていた教育内容(分数の定義、分数除法の計算規則以外の教育内容)を選定し、当該の教育内容について、国定教科書の内容と教育実践研究の動向、および、両者の関連を明らかにする。 (5) 教育実践研究の動向を示す史料として、引き続き、教育雑誌の調査・収集を進めると同時に、その電子化に着手する。
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