研究課題/領域番号 |
16K04464
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
石川 英志 岐阜大学, 教育学研究科, 教授 (20168199)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 小規模校 / 校内授業研究 / 同教科コミュニティ / 異教科コミュニティ / 資質・能力 / 若手教員 / 連携協働 / 教職大学院 |
研究実績の概要 |
三点にわたり展開。 「書面調査分析」として、昨年度末に岐阜県の全ての小規模中学校(12学級未満の計113校)を対象とした書面調査で回収したデータ(校長…67校、若手教員…76校292名)の分析を行った。若手教員の4割が免許外教科を担当し、一方で同じ専門教科同僚数ゼロが3割、1名が4割近くに上る小規模中学校の若手教員の実態とそれに起因する課題が明らかになり、対応や見通しをまとめた。教科部会が成立し難い状況下の異教科間の教師の学びの枠組の工夫に関して、校長回答を分類整理し、九つの方向性があることを明らかにした。そのなかに新学習指導要領にみる資質・能力の育成という視点から、教科間の目標の関係性や親近性を整理し、異なる教科間で学ぶ可能性を挙げる回答があった。この分析考察は日本教育方法学会で発表。 「実地調査」として、政策と実践の両面で実施。前者として、岩手県葛巻町を対象に岩手大学教職大学院の協力のもとに行い、初任・若手は規模の大きな学校が多くある地区(盛岡や一関)に重点的に配置され、過疎地域の学校には2、3校目に異動という実態が明らかになった。後者として、秋田県Y市立N中の訪問調査を行い、新学習指導要領にみる資質・能力の育成の視点から各教科の資質・能力を四つの観点から整理し、各教科間の目標の関係性、親近性を教師間で相互理解し、その基盤の上に異教科間で学ぶ授業研究を展開し、同教科の同僚不在等の状況に対応していることがわかった。 「実践企画・運営」として、27-28年度、過疎化進展地域の小規模校(岐阜県東濃地区)と行った協働授業開発プロジェクトの分析をまとめ、学会発表と論文にまとめた。本年度、別の中学校(西濃地区)との協働授業開発プロジェクトを、異教科混在チーム編成のもと、資質・能力における資質と能力の関係性、資質・能力と知識の関係性、資質・能力と教科の関係性の視点を考慮して行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
・29年度当初の計画では、27-28年度フィールドとしてきたT中学校において、「小規模中学校若手教員の授業力形成・向上を支援する授業研究組織開発」(担当教科の異なる教員で編成された複数のチームによる協働授業研究)を継続的に企画・運営することを掲げていたが、大幅な人事異動等で困難となった。しかし、岐阜県内の別の地区の小規模中学校が引き受けてくれることとなり、実施することができた。なお、本年度、前年度末に告示された新学習指導要領のキー・コンセプト「資質・能力」を手がかりに、各教科の目標を検討し、教科間の関係性や親近性を明らかにするというビジョンを、小規模校における異教科担当の教師間の学びを関連付け深める手がかりとする着想を得ることはできたが、29年度プロジェクトに具体的に適用するに至らなかった。こうした視点に基づく授業研究への動きは、「実地調査」として訪問した小規模中学校(秋田県Y市立N中学校)の取組に見られ、教科部会の不成立状況にある小規模中学校の授業研究を導くための枠組として汎用可能性があることが分かってきた。 ・岐阜県内の小規模中学校を対象とした「書面調査」の分析考察を行った結果、小規模校の若手教員の授業力形成をめぐる環境的課題として、免許外教科担当の負担の大きいことと、同教科担当の先輩同僚の少なさ(いないこと)に起因する学びへの潜在的ニーズが高いが、それに応える方策が学校として構想されていないことが明らかになった。そして、前者については、文科省で現在進められている「免許外教科担任制度の在り方に関する調査研究協力者会議」に傍聴登録し、情報収集を進め、免許外教科担任を自分の専門教科担当につなげる学びの可能性を探っている。後者については、資質・能力の育成からみた異教科間の学びの展開、近隣校との同教科専門教師どうしの研究交流の促進等がポイントとなることが明らかになってきた。
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今後の研究の推進方策 |
引き続いて、協働授業組織開発プロジェクトを、岐阜県における教科部会成立の困難な小規模校において企画・運営する。継続事項と改善・発展事項を洗い出し、後者に関して、今回は、「資質・能力」の育成をベースとして、教科部会成立の困難な小規模校において、各教科の目標を検討し、教科間の関係性や親近性、その全体的な構造を俯瞰するという視点のもとに、異教科担当教師間の学びを関連付けて深めることを推進する。これに対して、(1)単元や授業の計画の様式等を学校と協議・相談して考案し、(2)授業実践を展開し、(3)授業実践をめぐる異教科間の教師の学びを設定する。(1)~(3)を相互参照的に分析し、小規模校の教師の授業力形成の要件を明らかにする。 これと関連して、前年度に訪問調査した小規模校(秋田県Y市立N中)のように、教科の枠組を越えて、資質・能力の育成という視点から、異教科担当の教師間で協働して授業研究を構想し実践している学校レベルの実践研究は、新学習指導要領とつなげてさらに広がり、多様な展開の兆候を表出していると予想される。そうした学校の諸動向を探り、その傾向性を把握・分析し、上記のプロジェクトの改善・発展につなげるように推進したい。なお、小規模校は、年度ごとの異動の割合が大きく、実施校の対応状況が変動する可能性もある。よって、教育委員会とも連携して、実施校候補を複数想定しておく。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)昨年度(平成29年度)は、小・中学校新学習指導要領が平成29年3月に告示されて直後の段階であり、キーコンセプトとして登場した資質・能力の育成を、異教科担当の教師間協働に結びつけるという構想のもとに、授業研究を企画し実践する、あるいはしようとしている小規模校に関する情報は僅かであり、訪問調査を十分に展開できなかったことが挙げられる。また、昨年度の小規模校との協働授業開発プロジェクトもそうした構想を実践に十分に活かすまでに至らなかったことも挙げられる。 (使用計画) そこで、次年度では、資質・能力の育成と異教科担当の教師間協働とを結びつける構想のもとに授業研究の実践に取り組みつつある学校に関する情報収集及び訪問調査をより広く行い、その対象校の課題や可能性を明らかにする。それらの成果を、岐阜県内小規模校との協働授業開発プロジェクトの推進に反映させて、小チーム編成方法、実践の計画・実施・省察の方法、チーム内での談話方法等に応用する。
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