研究課題
改革芸術学校バウハウスの教育は、デザイン教育、工芸・建築分野の導入教育として、米国、ヨーロッパ諸国、日本、北欧諸国等における芸術大学改革に先駆的な役割を果たした。しかしわが国のバウハウス研究は、バウハウスの導入教育(学)の形成経緯、並びに同教育の自己探求的基礎付けという、同校教育の根幹解明の課題を積み残してきた。同校導入教育の重要ルーツは、シュトゥットガルト芸術アカデミー、ヘルツェル学派の改革的精神と伝統にあった。そこで本共同科研助成の研究では、その経緯と基本的骨格について研究がなされた。更に、クレーフェルト繊維工芸中等学校改革実践の研究を通して、もう一つのルーツの糸口が発見された。K・テーニセンの同改革研究を主文献とした2010年代の我々の共同研究によれば、イッテンが繊維工芸教育に取り入れた導入教育(学)のアプローチは、現代用語を用いれば、基本的に1920-30年代の実験学校教授学、並びに実験学校の探求教授学を巧みに活用したものであった。重層的に構成されたこの現代探求的教授学の輪郭こそ「バウハウス教育学」を支えた「造形発想教育学」の中心骨格であった。約100年間みずみずしい生命を持ち続けてきたバウハウス教育学の基本骨格と、同教育学が有していた潜在的可能性は、①ヘルツェル学派の洗礼を受けたJ・イッテンの芸術学校改革実践として、更に②ベルン師範学校出身教授イッテンの1930年代の繊維工芸教育改革実践の一環として実現されたものであった。本申請研究では、わが国の研究者が入りこめなかったシュトゥットガルト・アカデミーの改革的伝統との接点でイッテンの造形教育実践を視野に入れ、同時にそのイッテンによって1920-30年代の実験学校教授学遺産が水面下でどのように発見・受容・活用されたのか、更にその遺産は戦後の自己探求的芸術教育学としていかに確立されたか、を解明しようと試みた。
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福岡教育大学紀要, 第5分冊, 芸術・保健体育・家政科編
巻: 69 ページ: 25-39