本研究最終年度は、引き続き、若手教師が持続的に自身の教育方法や教育観を練り上げるための協働実践研究グループ「たねの会」を研究フィールドとして、若手教師のナラティヴ資料を収集した。収集したナラティヴ資料に基づいて、若手教師の課題意識の変化を分析するとともに、研究フィールドの変容と継続に関わる要件についても再検討した。補助事業期間の延長が認められたことにより、教師の実践力形成過程における「語りの変容」を4年間にわたって継続的に検討することができた。 1.現職教師と研究者による協働的実践研究の遂行:キャリア10年未満の若手教師とベテラン教師をメンバーとする協働研究フィールド「たねの会」を年に2回の頻度で開催し、若手教師のナラティヴ資料収集を積み重ねた。ただ、最終年度はコロナ禍にあって、3月末に予定した会を無期延期せざるを得なかった(「たねの会」は補助事業期間終了後も継続する予定である)。 2.若手教師のナラティヴ資料の分析:若手教師のナラティヴ資料をテクストとして、臨床教育学的アプローチによる分析を行った(未刊行)。参加者の学校における役割変化が生じる(若手から中堅の入口へ)ことで、教師として生きるうえでの「選択肢」も複数化することがあらためて明らかとなった。退職を選ぶ者もいるため、「退職という語り」を検討することが今後の課題として残された。 3.ゲスト研究者を招いての討議:「たねの会」に、元奈良女子大学附属小学校副校長である椙田萬理子氏を招き、「言葉と子ども」という観点から若手教師の直面している問題を共に考察した。参加者からは、「慣れ」への不安や、教師という職業が社会と断絶しているのではないかという焦りが語られた。彼らの語りから、教師を続けることを前提とした「会の応答の枠組み」自体が、若手教師の焦燥感を高めている可能性があるという示唆を得た。
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