研究課題/領域番号 |
16K04481
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研究機関 | 京都府立大学 |
研究代表者 |
吉岡 真佐樹 京都府立大学, 公共政策学部, 教授 (80174895)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 教師教育 / 教員試補制度 / 教員養成 / 教員養成スタンダード / ドイツ |
研究実績の概要 |
ドイツ各州における教師教育制度改革の動向について、本年度は特にヘッセン州の状況に関して調査研究を行った。 ボロニャ・プロセスに基づく大学制度改革、すなわち学士(BA)および修士(MA)課程の導入とともに、ドイツの大半の州では、従来、大学での学修の終了時に行われていた第1次教員国家試験が廃止され、その代替として修士課程修了を義務づける改革が行われた。この制度改変は順調に進むかに見えたが、近年、それを中止ないし中断し、以前の[第1次教員国家試験-試補勤務-第2次教員国家試験]という制度枠組みに回帰する州が散見されるようになってきた。その代表がヘッセン州であり、同州の現状を、a)ギーセン教員試補研修所、b)ギーセン大学、c)フランフルト大学、等での聞き取り調査を通じて検討した。 調査を通じて明らかになったことは、①第1次国家試験の実施が、法学や医学の場合と同様、専門職としての社会的地位の確認につながっていると認識されていること、②教育行政当局の立場からは、大学が行う「教育実習」は専門職の訓練としては不十分であり、旧来の試補勤務のやり方を確保する方が有意義であると認識されていること、③大学の側も、地域の学校での教育実践研究や教育実習に対して、必ずしも積極的に取り組んでいる状況ではないこと、④特にフランクフルト大学では、それぞれの専門学部での学修・研究のコースと教員志望者のためのBA・MAコースを明確に区別するとともに、教職課程を学部組織から完全に切り離して独自の組織(「学部」)として再編成しようとする試みがなされていること、等であった。 いずれにしても、ヘッセン州にみられるような教員養成制度の旧体制への回帰、そしてそのなかでの試補制度の改革の進行が、現在ドイツの教師教育制度改革の一つの特徴であると整理することができよう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ドイツにおける教師教育改革の現状は、当初予定して方向に進んでいる州(ノルトライン・ヴェストファーレンなど)と、ヘッセン州にみられるように、旧体制への回帰がみられる州とが混在しており、相当混沌とした状況になっている。さらに州のなかでも地域によってかなり様相が異なっており、それらの動向を全体として整理・分析するには、実態の細かな解明ととともに理論的な枠組みも求められることとなっており、より集中した作業が必要となっている。 加えて、この間のシリア等からの難民受入政策のなかで教育現場は様々な新たな対応を迫られており、旧来の量・質をこえた「包摂(インクルージョン)」政策が求められている。このことは教師教育の分野に対しても実践的に様々な課題を提起しており、これらについての理論的検討も加えたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2018年度は最終年度となるため、研究のまとめを行いたい。そのために、次のような作業を行う。 ①ブランデンブルク州あるいはザクセン州など、旧東ドイツ地域において現地調査を行い、これらの地域の教師教育制度改革の現状について検討する。 ②ドイツ全体の動向を整理するために、各州の改革状況を3ないし4程度のグループに類型化し、その上で課題と問題点について検討する。 ③試補制度改革の具体的内容に関わって、特にわが国の教師教育制度にとって重要であると考えられる諸点について検討し提起する。
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