本年度は日本の植民地統治下の台湾において、全島的に実施されていた学校外の教育関連行事として、台湾教育会の主催による「芝山巌祭」に注目し、検討・分析を試みた。 2018年6月に天理大学で開催された天理台湾学会第28回研究大会において、「1930年代以降における芝山巌の位置―学校教育とのかかわりを中心に―」と題した研究発表をおこない、植民地教育に従事した「殉教者」を祭り、「芝山巌祭」をおこなうための場所として台北・士林に「芝山巌祠」と呼ばれる宗教的施設が設置されて以降の芝山巌の学校教育における位置づけについて検討を加えた。この検討を通じて、1940年代の戦時体制のもとで国威発揚の装置のひとつとして掲げられた「芝山巌精神」という言葉の内実が、1930年代の芝山巌への学校動員・団体参拝によって満たされていったことを指摘した。 以上の学会発表に前年度までの研究成果を合わせて、植民地教育の「学校文化」にかかわる芝山巌祭をめぐる動きをひととおり捉えることができた。なお、上述の発表については論文の形で公表することを予定している。 合わせて、こうした学校行事にかかわった教員たちの動向についても継続的に調査をおこない、その研究成果の一部を、2019年3月に台北・東呉大学で開催された天理台湾学会第1回台湾研究会において、「植民地統治期における公学校教員の位置―教員の経歴に注目して―」と題した発表によって公表した。本研究発表によって、上述の芝山巌祭を主催していた台湾教育会の主要な教員・教育関係者の多くが日本による台湾統治開始当初に台湾へと渡った、相応に地位のあった教員で占められており、それぞれに台湾各地で教育にかかわる有力者として地域の人々との関係構築を多様に展開していたことを指摘した。 以上の研究成果を基に、今後、植民地教育の展開過程に関して、さらなる研究の発展を期することとする。
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