本研究は、戦前、各地の小学校に建設された「奉安殿」の建設・維持・解体を通して、学校と地域社会の連携の具体的な構造を明らかにするものである。最終年度の2019年度は、昨年度に引き続き北部九州・京筑地方を研究対象とし、これまで明らかになった残存奉安殿(6つ)の詳細について調査し、分析を行った。 第一に、残存奉安殿(6つ)について、改めてその建設当時の様子を明らかにするため、各学校を訪問し、学校文書、卒業アルバムや記念写真等の調査を実施するとともに、関係者を訪ね、日誌や自伝等の史料調査を実施した。戦前の奉安殿の写真が残されているのは、仲津小、八田小学校のみであった。そこから、戦後移設された奉安殿は戦前の形をそのまま「再現」されていることが確認された。第二に、「慰霊塔」として使用されていた仲津小、上城井、下城井、祓郷について、その具体的経緯を確認するため、関係者にインタビューを行った。遺族会の高齢化に伴う奉安殿維持をめぐる課題が確認された。第三に、戦前における築上郡の奉安殿建設状況を確認する唯一の史料が豊前市立図書館所蔵の『築上新聞』である。最終年度にその史料閲覧が可能となり、関連記事の収集をおこなった。第四に、仲津小学校の奉安殿が行橋市の戦争遺跡として認定され、2018年12月に戦後移設された場所(行橋市稲童覗山中腹)から、新しく稲童1号掩体壕史跡公園(行橋市稲童1095-17)に移設された。この移設をめぐる遺族会と行橋市行政とのやりとりに注目し、経緯に関わる資料収集を行った。
以上の研究調査により、福岡県京築地域の残存奉安殿についての一定程度の全体像を捉えることができた。2020年3月に『福岡県京築地域に残る奉安殿調査報告』としてまとめた。
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