研究課題/領域番号 |
16K04520
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研究機関 | 北海道博物館 |
研究代表者 |
小川 正人 北海道博物館, 研究部, 研究部長 (10761629)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | アイヌ教育史 / 近代アイヌ史 / サハリン(樺太)アイヌ / 先住民族と教育 / 先住民族政策 |
研究実績の概要 |
○ 本研究課題は、近代の北海道とサハリン(樺太)において、アイヌ民族が自ら学校を設置し、または設置しようと取り組んだ事例が見られることに着目し、これらの事例に係る基礎的事実(事例の調査と抽出、背景と経緯、設置前後の学校と地域の関係等)を明らかにすることを通して、近代アイヌ史におけるアイヌ自身の意思・要求という視点から、その歴史的意味の考察に繋げようとするものである。 ○ この目的を果たすため、本研究では、A(ひろく事例を調査し基本的な情報を収集)、B(着目すべき事例やまとまった資料が得られる事例を中心に、具体的な経緯や背景等を掘り下げる調査)、C(A、Bにより得られた事例の分析・比較と成果のとりまとめ)の3つの作業段階を設けた。3年計画の1年目(2016年度)ではAに重点を置き徐々にBを開始することとし、道内諸地域及びロシア共和国サハリン州の公文書館・博物館で主にAを進めることに重点を置いた。 ○ 2年目にあたる2017年度は、①Aを継続しつつ、②まとまった資料や着目すべき資料が確認できた地域についてBの段階を進めることに当年度の重点を置き、③あわせてCの段階を見据えたデータ整理や中間発表着手することとし、①については研究代表者である小川が札幌市、函館市、帯広市等での調査を継続、②については十勝地方の事例に関する長野県小布施町での調査と、ひろくサハリン全域に関するサハリン州公文書館・博物館での調査について検討し、本年度は後者(サハリン)に重点を置くこととして、小川及び連携研究者である田村将人が中心となって資料調査を行なった(長野県の調査は最終年度に実施することとした)。 ○ ③についても、臨時職員を任用し収集した資料の整理に着手するとともに、5月及び6月に小川が帯広市及び札幌市における博物館講座で成果を報告、年度末には田村が研究紀要に資料紹介を掲載する等の取り組みを進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
○ 本研究課題の助成金申請時点の計画及び1年目を経過した2017年度当初時点での計画と対比すると、上記「研究実績の概要」にも記載した作業段階のうち、Aの一部を次年度以降に延伸している部分があり、またBについても長野県調査を次年度に回すことにしたが、これらの措置はいずれもそれぞれの調査の充実を期するためのものであること、また、サハリンでの調査では予期以上の成果があり(その一部は「今後の研究の推進方策」において後述)、研究の成果発表についても、小川は5月(帯広市での博物館講座)、6月(北海道博物館での講座)及び10月(教育史学会での口頭発表)に実施、連携研究者による資料紹介も2年連続して北海道博物館研究紀要に発表する等の蓄積を重ねている。 ○ 特に本年度は、昨年度から継続してサハリン(樺太)におけるアイヌ民族と学校・教育との関わりについて、サハリン州郷土博物館の協力も得て現地調査を行い、同州公文書館が所蔵するアイヌ村落の実態に関する資料紹介を行う等の成果の蓄積を達成し、また北海道内の調査でも、基礎的な情報の蓄積に加え、これまでのアイヌ教育史研究では着目されてこなかった南千島・択捉島における、開拓使が設置した学校に対する地域のアイヌの関わりの解明に取り組む等の成果を得た。 ○ これらを勘案すれば上記の自己評価が適切と判断したものである。
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今後の研究の推進方策 |
○ 今年度は、本研究課題の最終年度に当たることから、①Aの補足調査とともに②Bをすすめ、③Cについて成果発表を企画するとともに、今後の研究課題の展開・推進の方向性を探る。 ○ ①については、伊達市、函館市、標茶町等での補足調査を実施し、②については昨年度から延伸した長野県での調査に最重点を置く同県小布施町に帯広及び本別で学校教員をつとめた僧侶の資料が多く残されていることがわかっているので、帯広市及び本別市の地域史に詳しい帯広百年館の大和田努学芸員及び十勝のアイヌ文化に関する第一人者である文化庁の内田祐一調査官(元帯広百年記念館副館長、現国立アイヌ民族博物館設立準備室)を研究協力者に迎えて調査に参画してもらい、多岐にわたる資料群の調査の充実を期す。 ○ ③についても、前年度に続き臨時職員の任用も含めて収集した資料の整理を進め、5月の石狩市での市民向け講座、9月の教育史学会での口頭発表及び年度末の研究紀要等の学術誌への投稿等による成果発表を進める。 ○ また本研究の実施過程におけるA及びBの資料調査や、これらを通じて得た諸地域の研究者等との情報交換を通して、アイヌ民族の学校・教育に関する様々な要求や取り組みに関する資料や、サハリン及び千島のアイヌ民族の足跡に関する資料等について新たな知見を得たことから、近現代のアイヌ民族の歩みを、サハリンアイヌ・千島アイヌという“国境”の変動よる大きな影響を被る中で自らの生き方を模索し希求した人々に焦点を据えつつより深め、捉えかえしていく研究課題の展開についても検討していきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
当年度は資料調査及びその整理に経費を傾注し、主に人件費において時間数等を調整の結果ごく若干の執行残を生じたが、これを次年度の資料整理の経費(人件費または資料整理にかかる物品購入費の一部に充当)として使用することとしたものである。研究計画そもそのものはおおむね予定どおり事業を進めることができている。
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