研究課題/領域番号 |
16K04521
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
浅川 和幸 北海道大学, 教育学研究院, 教授 (30250400)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 教育学 / 学校教育 / 人口減少 / ノンエリート青年 / キャリア教育 / 社会的自立 / ローカル・キャリア・トラック / 中等教育改革 |
研究実績の概要 |
本研究は、人口急減が進む北・北海道を対象に、地方ノンエリート青年の社会的自立の内実の解明と、その知見を生かした「地方創生」を進めることを可能にする中等教育機関の連携による「幅広いキャリア教育」構想を軸とした中等教育改革の展望を得ることを目的としている。 平成29年度は、上川支庁の下川町と釧路支庁の浜中町を対象とした調査研究を行った。これは共にこれまでの西興部村・興部町との比較として位置付く。 前者(下川町)は林業を中核とした地域振興と同時に小・中・高で一貫した森林教育を行っている。役場担当部署と教育委員会に対する調査、森林教育を担っているNPOの調査を行った。これらは平成30年度の中学校の調査・生徒調査の準備作業である。また、林業の担い手は都市からのIターン者が多い。平成30年度の若手労働者調査の準備として、雇用母体である森林組合の調査も行った。後者(浜中町)は前年度のIターンで新規就農した酪農家の調査を前提に、「地域アイデンティティ」(以下、LI)教育を中心とした教育改善を行っている高校(霧多布高校)の生徒調査を行った。 さらに前研究課題からも引き継いでいる中学生のLIの構造とその変革可能性を、「西興部調査報告1 西興部村の未来と「若き担い手」」としてまとめた。中学生が消費文化によって社会的に陶冶される構造は、北海道の地方でも例外ではない。標準的な都市の消費文化資源(「イオン」や「カラオケ」等々)がないという疎外感は、負のLIを形成させる。それを克服するためには地域の具体的な魅力が重要であった。例えば、チーズやホタテ等の食品である。しかし、それ意外にも、「生活の穏やかさ」、「地域への参加と受容経験」や「中学生の処遇への決定権の分与」への評価がLIの形成に影響していることが分かった。 この報告書の一部を北海道教育学会大会(室蘭工業大学)において発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度提出の交付申請書では、平成29年度に上川支庁の下川町を中心とした調査を行う研究計画を立てていた。教育に関わるものでは下川町教育委員会、下川中学校、近隣の高校である。しかし、中学校と高校の調査は実現できなかった。それは中学校と高校の生徒調査のインタビュー要員(院生・学生)が確保できなかったからである。そのため機関調査を優先し、小~高一貫で体系的な森林教育の実施主体であるNPO調査を追加した。また比較の観点から、浜中町霧多布高校生徒のアンケート調査を追加した。林業部門では産業推進課と下川町森林組合を、さらに若手労働者に関する調査を企図していた。これについても同様の理由により、機関調査を実施したが、労働者調査については実施できなかった。 ところで、研究のひとつの軸は、地方ノンエリート青年の社会的自立の核となる地域社会への定着意識の解明である。これを「地域アイデンティティ」(以下、LI)と進路(地元に残るか否か)について、中学生の分析として進めることができた。『西興部村調査報告書1 西興部村の未来と「若き担い手」--中学3年生は何を考えていたか--』である。報告書において、LIの構造理解にたどり着いたと思われる。これは、ふたつの中学校の複数年度の生徒調査によって明らかになったものである。この成果の学会発表については研究実績の概要に書いた通りである。 研究のもうひとつの軸は、地域から出て行かず残った者とIターンで新規来住した地域生活者も加えた「若き担い手」のLIの検討と両者の関連・矛盾について理解を進めることである。現在、ここまでの若手労働者調査のまとめをしている。 調査計画に掲げたもので実施できなかったものもあるが、新たに追加が必要で実施したものもある。報告書と学会発表で、研究全体の軸となる論理の片方を明らかにできた。そのため、「おおむね順調に進展している」と自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となる今年度の研究の重点は二つからなる。 第1に、下川町の中学生と高校生、そして若手林業労働者のインタビュー調査で要員が確保できなかったためにできなかったものがあった。それを実施する。これについては、指導する院生と学生が確保できたので実施可能である。下川町の中学校と周辺の高校の機関調査を行ってから、インタビューによる調査を行う。若手林業労働者については、昨年度の機関調査時に既に依頼を済ませている。なるべく年度の早い時期に実施したいと考えている。 第2に、理論的な成果を出すことである。これは二つの内容からなる。二つの町村の中学生のLIの構造については、昨年度の報告書において仮説の構築ができた。これを森林教育が盛んな下川町の中学生のLIと比較することで妥当性を確かめることである。さらに、地域は違うが浜中町の霧多布高校の高校生のLIとの比較も行う。このことで主要な産業の違いも含めて、仮説に立体的な膨らみを確保できるのではないかと考えている。さらに林業労働者については、西興部村・興部町において行ってきた林業労働者との比較の観点も加えつつ、北・北海道における林業のローカル・キャリア・トラックと地域で生活する「若き担い手」のLIの構造と将来展望を明らかにする。 そして研究題目への解答を出したい。現在、以下のような構成で考えている。第1に中等教育段階における生徒と青年労働者という二つの世代の「若き担い手」のそれぞれのLIと将来展望についてこれまでの成果をまとめる。第2にふたつの世代間の関係構築の可能性について考える。詳細は省略するが、青年労働者の一部には中学生のLIにおいて「地域への参加と受容経験」や「中学生の処遇への決定権の分与」と呼応する志向性をもっていると思われる。これらを生かした中等教育の改善に関して提言したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、下川町と近隣における中学校といくつかの高校、そして若手林業労働者のインタビューが実施できず、今年度にスライドさせたからである。平成29年度には、院生・学生をインタビュー要員として調査を実施するとして予算計画を立てていた。ひとり人当たり、旅費・宿泊を合わせ、3泊4日の日程でおよそ5万円かかる。この分が次年度使用額となった。これを平成30年度の予算に組み込みことで、本年度調査を実施する計画である。 使用計画について大枠は、昨年と同様に考えている。調査旅費に多く支出し、物品に関わるものは後回しにして調整するという考え方である。しかし変更点もある。第1に、平成29年度の「その他」支出のうち「テープ起こし」に関わる支出を減額したいと考えている。これは申請者が行った機関調査において、それにかける時間がないため業者への委託で多額の支出必要となった。興部町において中国人技能実習生が流入していることに鑑み、緊急に調査を行った。その通訳や文字データの翻訳も加わった。今年度は、院生・学生に委ねることで安価に済ませたいと考えている。第2に、書籍等の購入は前年度・前々年度に購入を済ませたものもあるので押さえる。第3に、学会発表は調査地域や抱えた状況の問題もあって北海道教育学会での発表となったが、平成30年度は日本教育学会の発表を行ってみたいと考えている。その旅費を考慮したい。
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