本年度は、中国における調査研究を中心に行った。中国における教員人事・異動制度は、総括的には都市部の優秀な教員を農村部や条件の悪い学校へ異動させようとする傾向を有している。特に近年、教育行政部門の強い指導によりこの傾向が加速されているが、未だ定数の空き状況をもとに異動させる旧来の制度枠組みが強固に残り、意図通りの異動が難しい側面も残っている。とはいえ、異動と評価が明確に結びつけられるようになったため、教員個人にとっては、異動が職務進級の必須条件とされており、そのことは異動の円滑さを促進する要因の一つとなっている。加えて、近年、省内各県に対する行政評価(均衡的発展評価)の評価項目に定期異動政策の有無が加えられたことは、今後の人事異動政策の進展に一定の影響を及ぼし得ることを示唆している。 また、研究期間全体を通して明らかとなった点として、比較対象国米国においては、従来、地方分権的特色の下、教員評価も伝統的に各州あるいは各学区において多様であったが、この傾向が近年連邦政府による積極的関与の下、変化しつつあることである。公教育全体に対するアカウンタビリティ追求の機運とともに、教育スタンタンダードの作成や統一的標準化テストの実施など、連邦主導の教育政策が強く押し進められ、そのことが教員評価制度にも大きく影響している。そのため、教員評価においても、専門職としての評価基準の創設や実践的成果を評価するための児童生徒の学力スコアの活用等が積極的に導入されるようになってきた。教員の能力をどう評価するかという点において、科学的、実証的観点は重要ではあるが、近年米国では、アウトカムの側面が偏重され過ぎ、 教員の能力評価を教室内における教科指導、とりわけ英語や数学などのテスト科目の成果に矮小化される傾向がある点は看過できない課題として指摘しなければならない。
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