研究課題/領域番号 |
16K04564
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研究機関 | 聖徳大学 |
研究代表者 |
西村 美東士 聖徳大学, 文学部, 教授 (90237743)
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研究分担者 |
田中 治彦 上智大学, 総合人間科学部, 教授 (50188322)
土井 隆義 筑波大学, 人文社会系, 教授 (60217601)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 社会教育 / 暗黙知の可視化 / インタビュー / 自立支援 / 就職支援 / 個人化と社会化 / 技能分析 / 社会的能力 |
研究実績の概要 |
今日の若者に対して、企業、行政、施設、団体等の社会の多様な教育機能が、人材育成、社会参画促進、就労支援、仲間づくりなどの多様な社会化支援活動を行っている。そこでは、流動化社会において個人化を深めつつある若者に対して、彼らのニーズとレディネスに対応した新たなカン・コツ(暗黙知)が求められる。本研究は 、優れた支援者のもつ暗黙知の現代社会における妥当性を検証するものである。 今日の個人化の進行する時代に、若者や社会が求める社会的能力育成のための教育機能について、その方法、 とりわけ暗黙知を明らかにすることは、社会の幅広い教育機能を今日的、本質的にとらえるためには不可欠と考える。また、優れた暗黙知のもとに「指導活動」を行うならば、若者の主体性を尊重しつつ、彼らのものの見方、考え方や価値観にまで踏み込んだ、意図的、計画的な支援ができるようになると考える。 そのため、本研究の対象を、青年期対象社会教育事業、民間団体活動、学校のキャリア教育、コミュニケーション教育、参画教育、就労支援、グループホーム、若手社員OffJT、その他ESD等における活動とし、これら諸活動における若者支援の課題を明らかにした上で、これに基づく優れた支援者の「指導活動」について「技能分析表」を作成する。その作成にあたって、「なぜ、どんな理由で、どの程度」という 「暗黙知インタビュー」を行うことによって、支援者自身が言語化できていなかった「暗黙知」を、言語、画像 、映像などによって可視化する。 通常のマニュアルには、暗黙知の解明に至らない。また、ベテランに講演を依頼しても、臨床的な事項まで思い至って言及してくれることまでは期待できない。本研究の暗黙知インタビューによってこそ可視化できる。 そのため、初年度は大学キャリア教育、コミュニケーション教育を対象に、教員の技能分析表を作成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
とくに支援対象者の理解と指導活動の課題の把握について、研究が進展した。 第一に、個人化と社会化の一体的支援である。社会規範を重んじるという今日の若者は、個人規範としての内面化や、自己の主観においての本気になっての規範追求、すなわち個人としての深まりと結びついていないところに弱点があり、そのため、支援者はむしろ個人化を支援すると推察された。 第二に、癒しによる原点回帰の促進である。①エスケープ:ストレッサーからの緊急避難、②オリジン:子ども心や原風景の回復等による自己確認、③ネットワーク:人的交流による心のふれあいの3機能が、次の個人化や社会化への「踏み台」となり、若者の自立を支えていくことをイメージして支援するものととらえられた。 第三に、能力の獲得支援である。そこで必要になることは、到達すべき人間像とラダーの設定、そのための必要能力の構造化、能力獲得と評価・改善の方法論である。これは、職業能力開発手法であるCUDBASによる必要能力構造化や技能分析表による作業の科学化の成果例がすでに多く示されているが、支援者が、体験的に行っていることと軌を一にするということが推察された。 これまで、上司など、若者の目上の人は、もし若者にとって不本意なら異議申し立てをしてくれると考え、彼らの行動に介入してきた。しかし、多くの若者は、目上の者とは議論してくれない。一般に、若者は、介入されればおとなしく言うことを聞き、そのとおりにするかわりに、失敗した場合も、目上の人のせいにしてしまう。支援者は、若者の思うとおりにやらせ、そのうえで安易に「寄り添わず」、対立関係も辞さないと推察された。このように、「寄り添って無条件肯定を与える」という過去の支援者像とは異なる今日の支援者像を本研究では設定しつつある。 なお、初年度は大学キャリア教育、コミュニケーション教育を対象に撮影と教員の技能分析を行った。
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今後の研究の推進方策 |
2年次以降は、流動化社会において個人化を深めつつある若者に関する初年次の検討に基づいて、「寄り添って無条件肯定を与える」という過去の一面的な支援活動とは異なる「あの手この手」の支援方策の暗黙知を、映像記録の分析と、暗黙知インタビュー、支援活動に関する技能分析表の作成によって可視化する。 具体的には支援の「かんどころ」に当たる部分について、「なぜ、どんな理由で、どの程度」という 「暗黙知インタビュー」を行うことによって、支援者自身が言語化できていなかった「暗黙知」を、言語、画像 、映像などによって形式知化する。その根源は臨床知であり、可視化は帰納法的なアプローチによるものである。その結果と、これまで主に演繹法的なアプローチによって明らかにされてきた「支援対象者の理解と指導活動の課題の把握」の結果とを照合し、仮説として、普遍的、一般的な「解」を求める。 個人化と社会化の一体的支援については、個人規範としての内面化や、自己の主観においての本気になっての規範追求、すなわち個人としての深まりと結びついていないところに弱点がある若者に対して、ベテランの支援者はむしろ個人化を支援するのではないか。個人化も社会化も停滞している若者に対しては、次の個人化や社会化への「踏み台」となるよう、「癒し」及び「原点回帰」の促進によって自立を支えようとするのではないか。また、成長の目当てを失った若者に対して、精神論を避けて、具体的必要能力に気づくよう促すのではないか。 このようにして仮説として設定した「解」について、若者に対する量的調査と多変量解析によって、その妥当性を検証する。具体的には、因子分析により、若者の個人化・社会化パターンに応じたニーズとレディネスの相違を明らかにする。そのうえで、支援者の推察やイメージング、「あの手この手」の対応が、その相違や変化に沿って行われていることを検証する。
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