研究課題/領域番号 |
16K04572
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
川原 健太郎 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 助教 (80367010)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 戦後史 / 社会教育史 / 自分史 / 書く実践 / メディア / 文化運動 |
研究実績の概要 |
【研究目的】 本研究は、八王子の実践家である橋本義夫が1960年代後半に創始した庶民による文章執筆運動、「ふだん記」(ふだんぎ)の運動を全国各地で実践する、「ふだん記」各地グループの活動を追い、戦後の地方文化運動の一側面を実証的に明らかにすることが目的である。 【研究方法】 本研究では、「ふだん記」創始の地である東京・八王子より地理的に離れた地域で活動をしているグループを主な研究対象に設定している。各グループが活動を行っている現地へ訪問を行い、窓口及び文友(ぶんゆう―「ふだん記」執筆者)へのインタビュー、各グループ発行の機関誌バックナンバーの収集を行い、さらに作品リスト作成、関連文献の調査などの方法により、研究を進めている。 【研究成果】 2017年度の研究では、北海道各地グループ(全6グループ)のうち未訪問であった、自分史とふだん記・さいはてグループ(北見市)、帯広ふだん記の会(帯広市)、ふだん記留萌グループ(留萌市)への訪問調査を中心に研究を行った。2016年度にすでに訪問調査を完了している3グループ(旭川グループ、札幌グループ、江別グループ)と合わせ、北海道全グループへの調査が完了した。各グループ窓口へのインタビューでは、「ふだん記」各地グループそれぞれの会の概要や活動状況、文友へのインタビューでは、「ふだん記」との出会いや書くことでそれぞれが得たことなどを調査している。2017年度も訪問グループの作品リストを作成している。作品リスト作成にあたっては、文友の協力により、創刊号からのバックナンバーの悉皆調査を行っており、各地グループ研究への寄与はもとより、人々が何を著してきたかをみることができる貴重な資料であると思われる。これらの研究は「戦後地方文化運動の実証的研究―『ふだん記』各地グループを対象として―第二次中間報告書」(2018年2月)として成果をまとめている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画当初に予定をしていた、自分史とふだん記・さいはてグループ(北見市)、帯広ふだん記の会(帯広市)、ふだん記留萌グループ(留萌市)への訪問調査を実行することができたことが主な理由である。これまでの研究と併せ、北海道全6グループの訪問調査を完了することができ、これらで得られた調査データを元に、比較検討が可能となっている。さらに、調査にあたっては、各グループから関係の機関誌や自分史の本などの史料の提供を始めとして、多くの協力を仰いでおり、今後の研究の遂行についても協力を頂いている状況にある。 加えて、さまざまな「ふだん記」各地グループ発行の機関誌に、研究代表者の訪問調査に関する記事や、当研究プロジェクトの紹介等の掲載をいただいている。多くの「ふだん記」文友にさらなる支援を頂いていることによって、研究の進捗に関して多大な推進力を頂いている。 さらに、「ふだん記」各地グループ機関誌掲載の作品リストの作成も順調に進んでいる。これまでに、北九州グループ、あいちグループ、みちのくグループ、旭川グループ、札幌グループ、江別グループ、さいはてグループ、帯広グループ、留萌グループ(「歩み」)の文献リストを作成できている。「ふだん記」がその運動を展開する中で、どのような形で戦後史を残してきたかをみることができる資料であると思われる。 なお2017年度研究においても、第二次中間報告として昨年度に引き続き報告書を作成し、作品リストを収載している。「戦後地方文化運動の実証的研究―『ふだん記』各地グループを対象として―第二次中間報告書」(研究代表者 川原健太郎、JSPS科学研究費助成事業 学術研究助成基金(基盤研究(C) (一般)課題番号16K04572、2018年2月、(全102ページ)。昨年度に引き続き、中間報告書をまとめ、発行することができている状況にある。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究の中で、北海道におけるすべての各地グループを含め、様々な各地グループへの現地訪問による調査を進めている状況にあるが、今後の研究においては、これらの比較検討などが研究推進方策の一つと想定している。 全国で活動している各地グループの中でも最多の6グループがある北海道には、他地域の各地グループに比して、特徴となる活動を行っている。それが、全道のグループが一所に集い文友の交流と親睦を図っている、「北海道ふだん記交流会」である。2018年度には留萌大会の開催が予定されているが、北海道の全グループの現地調査終了を踏まえ、研究を進めるにあたり、2018年度に北海道ふだん記交流会への訪問調査を計画している。これまでの研究の中で、北海道での「ふだん記」文化の隆盛においては、創始者である橋本義夫も参画した、北海道での大会開催の影響も少なからずあったように思われる。現在開催されている北海道交流会を通じて、「ふだん記」運動の広がりや、人々が書き続ける力の源泉に迫りたいと考えている。 さらに、「ふだん記」各地グループの作品リストの増補も計画している。各グループにおいて、毎年機関誌が発行されており、これらを含めながら作品リストをより充実させていきたい。 量的な把握に関しては、質問紙を用いたアンケートの計画を変更することを予定している。これまでの研究の中で、訪問取材を行っている「ふだん記」各グループから相当の協力を頂いており、すでに十分な調査データを得ていることがその理由の一つである。これらのデータを活用し、なおかつ作品リストも活用し、「ふだん記」各地グループに関する分析を深めていきたい。また、より多くの質的データを収集したいということがもう一つの理由である。上記の北海道交流会の調査など、研究計画当初の予定以上に多角的な形で把握するような研究推進を行うことを考えている。
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