研究課題/領域番号 |
16K04575
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研究機関 | 実践女子大学 |
研究代表者 |
清田 夏代 実践女子大学, 生活科学部, 教授 (70444940)
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研究分担者 |
広瀬 裕子 専修大学, 文学部, 教授 (40208880)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 地方教育行政 / 教育再生 / 困難集中地域 / イギリス / ガバナンス / 地方当局 |
研究実績の概要 |
平成29年度の研究実績として,研究代表者(清田)は論文「英国における自律的学校ガバナンスと地方教育行政をめぐる改革の動向--地方当局の役割と意義に関する一考察--」(『日英教育研究フォーラム』第21号,2017,pp.53-69)を執筆した。そこでは学校教育領域における供給者と消費者の直接的関係の拡大をめぐる理論的背景を整理し,その上で「公共性の担保」という課題を担うべき教育行政の役割を英国の教育改革を対象として検証すること,すなわち一つの地域に所在する複数の学校を包括的に干渉する教育行政組織に拠ることなく,学校単位の経営戦略によってのみ行われる改革の成功の可能性と,そうした改革の公教育としての正当性を問うことを目的とする研究を行った。 また,研究代表者は,進行しつつある教育ガバナンスの一形態として評価を通じた統制の問題を明らかにするために,他領域の研究者と共同し就学前教育領域の研究者デニス・キングストン氏(サセックス大学)を招聘し,平成30年1月27日にシンポジウム「就学前教育における評価のこれから--英国SSTEWスケールを通して考える--」を開催した(本科学研究費に加え,実践女子大学の学内研究助成制度の一つである研究成果公開促進費を用いた)。このシンポジウムでは日本,英国を含め,複数の国際比較が行われ,就学前領域における評価の促進においてもOECDのような国際機関が重要な影響を及ぼしている実態が示され,初等中等教育における学校ガバナンスを主たる対象とする本研究に対しても示唆を与えるものであった。 研究分担者(広瀬)は今年度前教育水準局長官を日本に招聘し研究企画を行うため,平成29年9月にロンドンに赴き,同氏と事前打ち合わせを行った。また,同年11月及び平成30年3月に同企画のための事前研究会を専修大学神田キャンパスで開催した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成29年度の計画としては,前年度の研究に基づいて再構築された問題関心を明らかにするために同年9月に英国での実地調査を予定し,計画通り行った。また,英国の教育水準局(Ofsted)の学校視察と指導による学校改善の効果について検証することを同年の目的としていたが,Ofstedの査察と評価の対象の一つとして,近年ますます重要性を帯びている就学前教育領域の評価政策に関連した国際シンポジウムを開催し,複数の国の同領域における教育者の教育活動についての評価軸の構築とその社会的な問題背景,及び有用性と限界に関する国際比較研究を,英国と日本を中心として行った。 加えて,英国における学校単位の自律的なガバナンスの拡大が進行する中で,地方当局の役割と存在意義をどのように再評価しうるのかという問題を主題とした研究論文から導き出された今後の課題として,緑書『すべての者のために働く学校』で示されたグラマースクール拡大の方針とそれが地方当局の役割,権限の増減に及ぼす影響と,同年11月30日に発表された「学校改革のための新たな財政的支援」における維持学校及び地方当局への財政支援が具体的にどのように進展しているかを検証する必要性について認識されるに至った。この課題についてさらに研究を進める必要があるが,この施策は前教育大臣によって示されたものであるため,今年1月に新たに就任した教育大臣の教育政策方針についても合わせて確認する必要がある。その上で,現行政府及び教育省の掲げる教育施策とそこにおける地方当局の役割と権限を検証し,研究テーマに関わる英国の教育改革の現状について検討することを予定している。これらの点から,本研究は当初の計画以上に進展しているということができる。
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今後の研究の推進方策 |
研究代表者(清田)は,8月末に教育のスタンダード化時代における学校ガバナンスの改革に焦点を当てる研究企画を行う予定である。日本も英国も,学校教育のガバナンスにおける非常に影響力のある方策の一つとして,国及び地方レベルの教育行政,また個々の学校の運営の様々な要素に対して詳細な評価基準を設定し,それに即して成果を測るという方法を多用するようになっている。また,英国については,本研究課題の予備的研究において,2006年教育査察法以降Ofstedの機能が学校統制の質の統制に及ぶようになっており,同機関が査察と評価を通じて学校改革の主たる担い手となっていることを示した(清田夏代「英国の学校評議会改革の動向--教育ガバナンスと査察・評価--」日本教育行政学会第49回大会自由研究報告,2014.10.11)ように,スタンダードの設定と評価の持つインパクトが教育改革上,無視できないアクターとなっている。こうしたスタンダード設定とそれに基づいた評価の重視がもたらす影響については,正負両面において検証される必要がある。本企画においては英国と日本の識者の議論を通じ,上記した課題の一端を明らかにする。また,研究代表者は,上記の問題関心の延長線上に,学校ガバナンスにおけるリーダーシップと教育行政機関の関係について明らかにする研究を行い,学会発表を行う予定である。 加えて,進捗状況についての説明でも言及したように,新教育大臣ハインズの教育施策とそこにおける地方教育行政機関の位置付けについて確認する。英国の最新の教育政策の動向によって日本がどのような教育上の示唆を得られるのかということについても検証する。 研究分担者(広瀬)は,7月に前教育水準局長官を招聘し,日本側の識者との討論を通じて査察のあり方や機能についての日英比較を目的とした研究企画を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究助成の最終年度であるH30においては,研究テーマに関連する議論を深めるための研究企画を行う予定にしていたため,前々年度及び前年度においても計画的に使用額を節減してきたことが,次年度使用額が生じた理由である。使用計画としては上記した研究企画の開催のためのゲスト招聘費,シンポジスト旅費及び謝金,その他企画に関連して生じる経費に使われる。加えて,3年間にわたる研究を総括し,解明すべき課題について英国での実地調査も行う予定である。
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