研究課題/領域番号 |
16K04581
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研究機関 | 大阪電気通信大学 |
研究代表者 |
佐野 正彦 大阪電気通信大学, 共通教育機構, 教授 (00202101)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | パネル調査 / 学校から仕事への移行 / 労働市場 / 非正規雇用 |
研究実績の概要 |
英国をはじめとするヨーロッパの若者移行に関わる研究者と共同研究ネットワークを作り、各国のパネル調査のこれまでの方法や研究成果の吟味を行い、これからの新たな若者移行調査の課題を検討した(ドイツ・青年研究所にて「5カ国の若者の仕事への移行調査に関する比較研究会」を開催)。「日本の教育制度と若年労働市場と政策」を紹介・発表するとともに、日英の若者の移行、とりわけ、非大卒者の若者の仕事への移行の軌跡とともに初期キャリアにおける労働条件、労働実態などを比較し、その成果について、この国際共同ネットワークを通じて検討を受ける。その中で、若者の雇用への移行の不安定さやリスクは、非大卒のノンエリートの属する若者層について、より集中しているという共通点とともに、日本の男女、英国の女性に関しては、離学時の初期キャリア経験が決定的に重要となっていること、すなわち、初期キャリアにおいて、正規雇用に就けず、非正規や無業状態に陥っ者は、その後に安定した仕事へ移行することは極めて限定的であることを確認した。他方、英国男性に関しては、当初非正規に就いた者であっても、4年以内に6割以上の者が、正規雇用やパーマネントの雇用状態に移行している。つまり、彼らの初期キャリアにおける非正規経験は、ステッピング・ストーンとしの機能を果たすことが確認された。 上記の知見を、英国で計画するパネル調査でより詳しく検証可能なように調査票等、調査設計の見直しを行った。また英国に赴き、調査対象と想定しているレスター継続教育カレッジを訪問し、スタッフから資料および情報提供を受ける。さらに、レスター大学メディア・コミュニケーション・社会学部の研究者に、質問票等を含む方法的吟味と、理論的枠組みについてのアドバイスを受け、調査の準備を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本科研の目的である、英国における本格的パネル調査を実施することを想定した準備をおおむね終えることができた。 レスター継続教育カレッジの訪問による、調査対象の確認と調査に必要な情報の収集を行うとともに、レスター大学の研究者および、欧州の研究ネットワークを通じた理論的レビューを経て、質問票を含む調査方法の吟味、対象カレッジ、対象者の限定等をほぼ完成することができた。 調査の理論的枠組みと調査内容については、従来の若者移行調査が、学校を離学してから後の追跡にほぼ焦点を当ててきたことの限界を明らかにするなかで、①学校段階での経験と、その後の移行との関係を明らかにすることが十分に視野に入れられてこなかったこと、また、②学校段階でも、職業意識や将来にむけての求職活動、就業への関心や希望、キャリア計画について、様々な要因の影響を受けて変化することを補足する必要を確認した。②については特に、職業意識や職業意欲に影響を与える要因や契機、たとえば、学習経験、職業体験、学校内外の仲間との関係、あるいは家庭環境を含む日常生活等が与える影響やそれとの関係を把握することや、その変容のプロセスを視野に入れることへの方法的自覚や理論的枠組みが十分でなかったことを、国際的な共同研究の中で明らかにした。 それらの課題や方法的視角を、予定している英国でのパネル調査の設計に組み込み、調査全体の構造や質問票に反映させる再設計を行った。
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今後の研究の推進方策 |
本科研遂行中に、「若者の移行」に関する調査方法や内容、成果に関する国際比較共同研究チームを英、独、スイス、フィンランド、日本の研究者と結成し、国際会議も開催した。研究チームは、本科研の研究成果を含め、国際比較研究としての客観性を高める研究の継続を決定した。各国のデータアーカイブス等からの既存の若者を対象としたパネル調査に関わる情報やデータの入手、相互検討のための会議や成果発表等をさらに発展させるために、本研究の検討期間の延長を決めた。 その検討によって得た知見をもとに、新たな課題を検証可能にする英国でのパネル調査設計の最終修正を行う。このパネル調査を遂行する最終準備として、レスター大学の研究者と具体的な調査計画の検討・確認を再度行う。可能ならば、調査フィールド(継続教育カレッジ)に赴き、調査を具体的に進めるための必要な情報の収集、学生の実態などの観察や聞き取りを行うなどの追加作業も行いたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本科研遂行中に、「若者の移行」に関する調査方法や内容、成果に関する国際比較共同研究チームを英、独、スイス、フィンランド、日本の研究者と結成し、国際会議も開催した。研究チームは、本科研の研究成果を含め、国際比較研究としての客観性を高める共同研究継続を決定し、各国のデータアーカイブス等からの情報やデータの入手、先行研究の整理等、相互検討のための会議や成果発表等を行うことにした。その成果を本科研の課題であるパネル調査の制度設計や質問紙等の作成に反映させることにしている。 以上のように、会議開催などや情報交換にかかる費用、既存のデータの入手にかかる費用などに助成金を使用する。
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