本研究は、近年、従来の中等教育レベルでの職業教育・訓練を高等教育レベルのそれへと引き上げる動きを、両者の新たな関係のあり方という問題意識のもとに、中等教育段階での職業教育・訓練が強固な基盤を持つドイツ・オーストリア両国の状況を中心に、批判的に検討したものである。 研究の成果は以下の4点にまとめられる。第1に、中等教育段階での職業教育・訓練の重要性が再度確認できた。アメリカに見られるようなcollege for all 政策は、しばしば職業教育・訓練全体の衰退を引き起こす危険性を伴う。これに対し、ドイツ・オーストリアでは高度化に対応しつつも、中等教育段階での職業教育・訓練を保持していることが確認できた。第2に、その一環としてデュアルシステムや職業系中等教育機関からの大学進学について様々な措置が講じられている。その際、入学後の学修において困難が生じ中途退学に至るなどの問題が深刻であることも確認した。職業教育・訓練の高度化(高等教育化)の際には、大学での学修のあり方について研究を進める必要がある。実践と理論を融合することを謳う、大学での新たな職業教育も、実際には非常に困難であり未だ端緒的な段階にあることを確認した。第3にこれと相まって、中等教育レベルの職業教育・訓練と、高等教育段階のそれとの関係については従来、入学条件の緩和など、中等教育から高等教育への接続・接近についての研究が主であったが、大学中退者の職業教育・訓練など、逆の接続関係も考慮しなくてはならない。ドイツでは、近年この取り組みが広まりつつある。第4に、以上から、わが国でも新たに発足した専門職大学制度に見られるように、職業教育・訓練の改革を高等教育化によって図ろうとする動きが顕著に見られる。しかし、本研究で明らかにしたような重要な理論的課題は未だ残されたままである。
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