本科研の最終年度である2018年度は、フィールド調査を実施するとともに、これまでの文献調査や資料収集の結果に基づいた分析を行った。フィールド調査としては、アメリカのCambridge市における初等学校の実践を調査し、子どもたちの活動・探求において当該の学校がある地域(市)やそこにある公共施設や自治体と連携した協働的な学びの効果と可能性についての検討を行った。また、8月に実施した東ティモールにおける大学と地域、NGO団体等との協働に基づく学びの調査、及びイスラエルで開催された16th International Network of Philosophers of Education Conferenceにおける調査では、学校と学校外の教育リソースとの連携に基づく「生活を通した学び」が、体験と思考との相補的・双方向的な効果をもつことによって、創造性や人間存在そのものを問いうる学習を生起させる可能性を検討した。 以上の研究結果の一部は、教育学術新聞の紙面にて「社会人教育の目的とは何か?―社会の知と学問の知の往還の新たな形へ―」として掲載した。また、東洋英和女学院大学の公開講座「生と死の物語」において「命の価値を教える・学ぶ実践を問う―「わかる」ことの多層性に基づいて」を行った。その一部は、2019年3月刊行の『死生学年報』において「「生と死」について学ぶことの意義とは何か―「わかる」ことの多層性に基づいて―」として収録・刊行された。今後、近刊の書籍においても、本研究の成果発表を予定している。 本研究は、実践に向けた更なる精査の過程にあるが、現時点における成果として、①一人称、二人称、三人称のそれぞれの関係性に基づく社会的協働学習のモデル化、②当該の学びによって、生活という文脈が求める卓越性に応じた様々な顕れをする思考や行為の伸長につながりうる可能性を示した。
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