保育の質の向上のためには、保育者の専門性向上を目的とする人材育成の充実と共に人材確保もその重要な核をなす。園内マネジメントの観点からは、いわゆる処遇改善という側面が政策的に先行しがちであるが、それだけでは、保育士の離職を防ぎ、継続的なキャリアを形成するにはいたらない。全国調査アンケートの結果からは、「法人や管理職が目指す方針と保育士の理想とする保育が一致すること」や「管理職の方針が一貫していること」などが長く働き続けたいと思える組織要因として抽出された。つまり、園の理念を中心とした組織づくりが求められていることが明らかになったのである。 さらに、人材育成モデルの観点から、経験の浅い段階においては、先輩やクラスリーダーからの指導・助言によって、実戦経験をもとに技能知識を身に着け、成長していくが、およそ10年経験程度になると、このモデルが限界を迎える。それは、指導する先輩などがいなくなることに加え、園内での役割が変化し、その段階で求められる専門性と、それに対して必要とされる育成モデルが異なるからである。これらの段階で求められるのは、園内研修や専門的なテーマによる検討会などである。また、1年目(1年未満)経験にとっては、いずれの育成モデルも必ずしも有効に機能せず、つまり、まずは専門性の発達という以前に、保育者、保育士としての基本的なスタンスを確立することが先決である。 以上のようなことから、調査を通じて明らかになったことは、個々の保育士の力量や意識、モチベーション以上に、これらの内容をつかさどるのはほかでもなく園のマネジメントが機能することである。つまり、管理職の組織マネジメントの質によって、保育士の成長は大きな影響を受けることになる。したがって、本研究を通じて、その重要性を確認することができたとともに、今後、これらを具体的、発展的に追究することが求められよう。
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