本研究は、2010年代の日本社会に生きる人々の歴史認識のなかで、国民意識と共生意識がいかに関連付けられ表現されるのか、そこに学校教育その他の場での歴史学習経験はどう関わるのかを探索するものである。戦後社会の変動に伴って変遷をみせてきた中等教育段階の歴史教育内容の特徴を指標とし、それを学習者の世代や教育経験と照応させた分析を行うことで、歴史認識の知識社会学的背景を検討している。 2019年度は、社会意識調査の結果の分析を通して、社会的共生を阻害する諸個人の意識やその背景要因を構造的に明らかにする作業を行った。特に、「社会の中の格差や分断を“容認”する意識」の実態把握と分析に焦点を定めて研究を進めた。 具体的に2つの課題を設定した。第1に、前年8月に行った調査のデータを分析し、社会的格差の拡大に対して「やむをえない」とする回答の背景の探索を行った。「無前提的平等主義」に基づく意識と態度がその核にあり、社会的疎隔を固定化する要素となっていることが析出された。分析知見は2019年9月の日本教育社会学会第71回大会で報告したほか、2020年3月公開の『早稲田大学文学研究科紀要』第65輯所収の論文「共生社会意識と教育に係る立場性の分析──「自由」と「管理」への志向性に着目した2018年調査データの検討」に発表した。なお2018年調査の単純集計結果は、研究代表者のウェブサイト(http://ubiquitous.image.coocan.jp/kyosei_surveydata2018.pdf)で公開している。 第2に、2018年調査の内容を改訂し、「格差・分断容認意識」の背景と影響をさらに多面的に把握するための調査を2019年10月に実施した。結果の検討からは主として、現在の日本社会では政治的に「支持政党無し」であることが社会状況についての判断を保留する態度と結び付いていることが把握された。
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