研究課題/領域番号 |
16K04601
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
小田倉 泉 埼玉大学, 教育学部, 准教授 (10431727)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ユマニチュード / ユマニチュード哲学 / 対話的関わり / 子ども尊重 / 「見る」「話す」「触れる」 |
研究実績の概要 |
本研究は、子どもとの個別的関わりにおいて子ども尊重を実践する行動を「対話的」関わりとし、包括的ケアメソッドである「ユマニチュード」を用いて、「対話的保育のための行動指針」を作成することを目的とする。「ユマニチュード」は、近年フランスで考案された認知症ケアのメソッドで、「優しさを伝えるケア技術」とも言われる。この技術の基本行為は「見る」「話す」「触れる」「立つ」の4つとされる。「見る」「話す」「触れる」は、ケア提供者の基本的行為であり、「立つ」はケア対象者にとっての「立つ」ことの重要性を示したものである。そこで本研究ではケア提供者の3つの基本行為に焦点を当て、この技術を保育の場において応用することによって、子ども尊重を保育の行為において具体化することを目指す。 本年度は、「ユマニチュード」哲学の構造分析と、保育者と子どもとの対話的場面における保育行動の分析を行った。「ユマニチュード哲学」の第1の特徴は、ケア対象者の人間の尊厳を哲学の根本原理に据えている点である。人間とは、ケア対象者とはどのような存在かに関する人間学的考察を深めた上で、ケア行為において尊厳を侵害する行為の発生要因を明らかにしている。この考究に基づいて、ケア提供者の3つの基本行動の質の在りようと具体的方法が示される。これらの3つの行動はケアの場に限定されるものではなく、他者に対する尊重の感情を表現する具体的行為と言える。そこで、保育行為におけるこれらの状態を検討するため、保育所、幼稚園において観察調査を行った。その結果、保育者と子どもとの個別的な対話場面の出現頻度は保育カリキュラムに極めて左右されること、また、ユマニチュードにおいては好意的感情を伝える「触れる」行為が保育においては稀であり、「注意」や「制止」といった行為に付随する頻度は高いことが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ユマニチュードに関する情報収集に制限が生じたことが第1の原因である。現在ユマニチュードの研修は申込者が殺到しているため、介護、看護の現職者に限定しているとのことで、研修に参加することができず、具体的な行動様式に関する情報が不十分なままである。第2に、保育者の行動特性の観察において、対話的関わりの発生頻度が当初の予想よりも低かったため、「対話的関わり」の行動特性の詳細な検証対象となる場面を十分抽出することができなかったことが理由である。これは、各園の保育カリキュラムに起因するところが多く、協力園の保育方針との関連性を検討しつつ進める必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
ユマニチュード哲学に依拠しながら、保育における基本原理、ケアの原理との比較検討を継続する。併せて、保育者の行動観察を継続して行う。「質の高い」個別的関わり場面における行動特性を、ユマニチュードの3つの基本行動に「聴く」を加えて検証すると共に、理論的検討を行う。 上記の2種の研究をもとに、「対話的保育の行動指針試案」を作成し、保育の場において検証を行い、「行動指針」の提案へとつなげる計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度計画していた学会参加が、倫理審査の時期の関係で叶わず、旅費を執行することができなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
旅費の残額については、29年度の学会参加、調査のための旅費として使用する。人件費の残額についても、本年度の調査のための人件費として使用する。
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