研究課題/領域番号 |
16K04604
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研究機関 | 滋賀大学 |
研究代表者 |
太田 拓紀 滋賀大学, 教育学部, 准教授 (30555298)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 観察による徒弟制 / 教師の職業的社会化 / 教師教育 |
研究実績の概要 |
「観察による徒弟制」とは、児童生徒時代の学校生活や教師との直接的な接触が、教員志望者に特定の教育観、教職観の形成を促すとみなす、教職の社会化過程である。米国を中心に海外では、「観察による徒弟制」に基づく研究がある程度蓄積されてきたものの、わが国では具体的な研究成果がほとんどみられていない。以上から、平成29年度は海外の「観察による徒弟制」研究を整理し、日本での研究応用可能性について論文を執筆した。その上で平成30年度は、教員養成学部を事例とし、質問紙調査とインタビュー調査による実証研究を実施した。これにより、「観察による徒弟制」の具体的な社会化作用を浮き彫りにしようと試みた。 まず、質問紙調査の結果から、教員養成学部生の学校経験を4つに分類した。その中心はリーダー役割を担い、教師と親密な関係を築くといった学校文化への同化といえ、この類型が4割程度を占めていた。逸脱的な学校経験が目立つ類型も2割ほど存在したが、この群は向学校文化の経験も比較的豊かで、同化型に近い側面をもっていた。一方で、リーダー役割を担わない消極的な類型が25%、さらに、学校生活に困難が伴うなどにより、学校や教師との関わりを全般的に回避する傾向のあった群が15%程度存在していた。 さらに、学校経験の類型ごとに、その教職観の特徴を検証した。結果、過去の学校経験は教員志望者の教職観に一定の影響を及ぼしていることが実証された。例えば、教師の連携・協働、子どもに対する影響について、向学校文化の経験が豊かな者は、自らの経験をふまえつつ高く評価し、そうした経験が希薄な場合は低く見積もる傾向があった。一方、教師の社会的地位については、学校と距離をおき、教師との関わりを回避する傾向のあった群が、自らの経験に基づいて低く評価していると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の当初の目標は、「観察による徒弟制」の枠組に基づいて、実証的な研究を実施することにあった。具体的には、教員養成学部の新入生を過去の学校経験に基づいて分類し、各類型の特徴を示すことで、その社会化の効果を検証しようと試みた。結果については、学会にて口頭発表を行うとともに(太田拓紀,2017,「教職の社会化過程としての 『観察による徒弟制』とその類型分析」日本教師教育学会第27回研究大会,奈良教育大学)、それに考察を加えた上で、論文を執筆した(太田拓紀,2018,「『観察による徒弟制』に基づく教員養成学部生の類型分析-教職の社会化過程としての学校経験と教職観- 」滋賀大学教育学部附属教育実践総合センター『パイデイア』第26巻,pp.69-76)。以上のように、実証的な調査に基づく具体的な成果を示したことで、事前の計画、目標を一定程度達成できた。 なお、本研究は同一対象者に継続して実施するパネル調査として設計したため、年度後半では、大学2年次に実施する質問紙調査、インタビュー調査の内容を精査した。今年度の反省を踏まえ、より「観察による徒弟制」の効果を把握できるように、質問文や尺度の精緻化に努めた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は引き続き、質問紙調査と面接調査を併用して、「観察による徒弟制」の過程で内面化される教育観・教職観が、教師教育を経るなかでいかに変容していくのかを明らかにする予定である。とりわけ、一般的に教員志望者は大学2年次に教職への意欲が減退するとされるが、これに「観察による徒弟制」がどのように関係しているのかを検討したい。具体的には、昨年度の新入生調査の対象であった教員志望の2年生に質問紙調査(集合調査)を実施して、教職意識の変化や1年間の学習状況について検証することで、「観察による徒弟制」による社会化の影響とその問題点を明らかにする。さらに、学外での教育インターンシップや教育実習を経験すると、以上の教育観や教職観はいかに変化するのかを検証するため、3・4回生といった上級生に対しても調査を実施する予定である。 これにより、養成以前のインフォーマルな社会化過程と、教員養成というフォーマルな過程との間におけるギャップを浮き彫りにし、その上で、教師教育における望ましい接続のあり方を考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
残額は7500円程度であり、おおむね使用額に達している。本年度の研究上で必要な経費はすでに使用したこと、最終年度の次年度はやや予定経費が少ないことから、繰り越すこととした。
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