「観察による徒弟制」とは、児童生徒時代の学校生活を教職の社会化過程と位置づける理論的枠組である。一昨年度は海外の「観察による徒弟制」に基づく先行研究を整理し、日本での実証研究に向けた足がかりとした。昨年度は、教員養成学部新入生を対象に質問紙調査と面接調査を行い、「観察による徒弟制」の具体的な社会化作用を明らかにした。以上をふまえつつ、本年度は、過去の学校経験が養成段階での学習態度や教育観の変容にどのような影響を及ぼすかを調査・分析することで、「観察による徒弟制」と教員養成との関係を検討した。 その結果、過去の学校生活で学校文化の中心から距離があった学生は、養成段階にて高い教職志望が冷却されやすいことが判明した。また、反学校文化の経験が目立った学生は、相対的に大学での授業を欠席しがちで、養成段階でも過去の態度を引き継いでいると思われた。このタイプの学生は、大学の授業に対して不満や疑問をもつ者が多いと推測され、養成での学習を自発的に排除してしまう「観察による徒弟制」の問題は、彼らを中心に引き起こされる可能性が示唆された。さらに、教員志望者の教育観は、大学生活のなかで変化しやすいものと、変化せず固定化されているものとに大別されることが分かった。このうち後者は、自らの学校経験に直接根ざして形成された教育観であると考えられた。 「観察による徒弟制」の先行研究では、教員養成の効果を高める上で、学生らの保守的・固定的な教育観をいかに克服するかが鍵であると指摘されてきた。本研究によって、どのような学生層がそうした教育観をもちやすいのか、そもそも固定的な教育観とはいかなるものか等が明らかになった。今後さらなる追跡調査が必要ではあるものの、被教育体験と養成段階との接続関係という観点から、望ましい教員養成のあり方を模索しようとする上で、有益な知見を見出すことができたと考える。
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