研究課題/領域番号 |
16K04605
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
倉石 一郎 京都大学, 人間・環境学研究科, 准教授 (10345316)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 標準化 / 福祉化 / ストリートレベルの官僚制 / 福祉教員 / ビジティング・ティーチャー / 社会的なるもの / アレント / ラバリー |
研究実績の概要 |
本年度は、研究全体の基礎となる理論的把握を集中的に行った。本研究は教育の標準化と学校機能の福祉化との関連を歴史的文脈において考察するものであるが、特にアメリカの文脈においてこの二つの現象の交点に位置するのが官僚制化の問題である。そこでまず、社会学者マイケル・リプスキーによって1970年代に米国で提示されたストリートレベル官僚制(Street-level bureaucracy)に関する議論の検討を行った。この理論は、公共政策をクライアントに届ける第一線職員がもつ裁量の大きさや組織的権威からの相対的自律性を明らかにしたものだが、福祉教員やビジティング・ティーチャーの存在を解釈する有力な補助線となる。この媒介者の視点を自身の日本の福祉教員研究に反映させた論稿を刊行した。また2009年に刊行した教育福祉論の単著の改訂作業(2017年9月刊行予定)を進める上で、この媒介者・ストリートレベル官僚制の視点を有効な形で取り込むことができた。 次に、20世紀に展開する福祉国家を批判する上で有力なハンナ・アレントの政治理論、とりわけ「社会的なるもの」の概念に注目しその検討を行った。アレントの理論は、福祉実践が脱政治化・行政サービス化し個人化・分断化による支配装置に転化している今日の状況を解釈するのに有用である。この理論の射程と限界を、20世紀シティズンシップという概念に関連させながら日本の教育運動に適用した論稿を刊行した。 最後に、標準化や福祉化の動向を含む米国教育史の200年の動向を骨太に描いたデイヴィッド・ラバリーの研究に着目し、翻訳作業に着手しながらそのユニークな視点の取り込みをはかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、研究全体の基礎となる理論的把握を行い、研究全体の基礎固めをすることができた。その理論的枠組みをこれまでの自身の分析対象である福祉教員やビジティング・ティーチャーに適用する論稿を執筆することで、その有効性を確かめることができた。また研究を背後から支える重要な米国の歴史研究の著作の翻訳を『黒人ハイスクールの歴史社会学』として刊行できたほか、別に重要な先行研究と目される米国の研究書の翻訳にも着手し3分の1ほど進捗させることができた。このように本年度の最重要課題である理論的基礎固めは順調に達成することができた。一方で、米国東部における資料収集は予想以上に時間を要することが判明した。以上の理由により、記載の評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、基本的に研究実施計画に沿って理論的把握と資料収集を両輪として進めていきたい。理論的把握においては、『黒人ハイスクールの歴史社会学』を翻訳する過程で気づかされた、標準化や官僚制に取り込まれない<自生的福祉>の概念(学校統廃合の対象から排除された黒人学校に逆説的に存在した、コミュニティに密着した学校機能)を理論化する方途を探っていきたい。また学校統廃合以前の米国のワンルームスクールがもつ機能の複数性を、多方面の資料から明らかにしていきたい。ただ、米国における資料収集に当初の予想以上の時間がかかるおそれがある。その場合は、三番目の比較対照である英国における資料収集の規模を縮小し、研究全体のバランスをとるようにしていきたい。
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