研究課題/領域番号 |
16K04605
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
倉石 一郎 京都大学, 人間・環境学研究科, 教授 (10345316)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 学校機能の福祉化 / 教育の標準化 / ビジティング・ティーチャー / 教師の労働の再定義 / 社会問題の教育化 |
研究実績の概要 |
本年度は第一に、1950年代に米国南部にみられたビジティング・ティーチャーの全州的配置について検討した論稿を公刊した。これは、教育の標準化と学校機能の福祉化という本研究課題にとって極めて重要な事例であり、研究の前進に寄与するものである。また同じ論稿のなかで、他国、特にヨーロッパ諸国と比べた際の米国の初等・中等教育固有の特性についても検討を行い、学校機能の福祉化が米国で先行した背景を裏付けた。第二に、海外の大学からの招聘を受け、近代日本における教師の労働の再定義過程に関する研究発表を英語で行った。この報告は、近代日本の教師に固有の業務と目される学校での宿直に焦点化し教師の仕事が狭義の教えること(教育・社会化)から、地域全体へのコミットメントへと押しひろげられていく過程に関わるものであり、本研究課題の学校機能の福祉化とも密接に関わるものである。さらに戦後の教育の民主化の中で、教師の労働が再々定義され、狭義の仕事へと回帰する力が働き、学校機能の福祉化にブレーキがかかった可能性も指摘した。第三に、前年度に主著を翻訳・刊行した米国の教育学者D.ラバリー氏を招聘し、国際シンポジウムを開催した。その場では氏の提起した社会問題の教育化(educationalization)概念を取り上げた。この概念は学校機能の福祉化に対して見直しを迫り、貧困や不平等問題に対して富の再分配という直接的介入ではなく、貧困層対象の教育プログラムの拡充で対処しようとする迂回的戦略であったことを突き付けるものである。学校機能の福祉化への批判的視座の確立をめぐって、有益な討論を行うことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、学校機能の福祉化と教育の標準化の連関を考える上で重要な論点をめぐって、国際的な場での研究成果の発信を、複数回行うことができた。これによって、学校機能の福祉化と教育の標準化をめぐる研究の視座が厚みを増すことができた。ただ、こうした場で発表した研究成果を年度内に、英語で国際的ジャーナル等に投稿することは時間不足でできなかった。以上の点から、(2)おおむね順調に進展している の区分に該当するものと考える。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、第一に、本年度に国際的な場で発表した研究成果をリファインし、国際的ジャーナルに英語で発信することを課題としたい。第二に、これまでに資料収集がほぼ完了している米国のADNS(All-Day Neighborhood Schools)に関する知見をまとまった形で公刊したいと考えている。これは、ビジティング・ティーチャーに続く大規模な学校機能の拡張・福祉化の試みであり、かつ本邦ではまだ十分に研究されていないトピックである。またそこでは、児童に対するまなざしの標準化という視座が重要な検討課題となる。その上で、同時期の英国における学校機能の福祉化の事例も参照しながら、研究全体のまとめを行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度に行った海外での研究成果の発表や国際シンポジウムの一部については別途外部資金を調達できたため、旅費や謝金を節約することができ、余剰が生じた。次年度予定額については、1年間研究期間を延長の上、研究成果をリファインし国際ジャーナル等へ投稿することを次年度に予定しており、そのために必要な追加の文献資料の購入、追加調査の旅費等に充てることを予定している。
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