最終年度にあたる本年度は、これまで申請者が、教育の標準化と学校機能の福祉化の結合を考えるにおいて中心的位置にあるとみなしてきた包摂(とその対の排除)概念についての研究を整理し、シティズンシップ概念との関連も明らかにしながら単著としてまとめる作業を進め、明石書店より『教育福祉の社会学:〈包摂と排除〉を超えるメタ理論』(全212頁)を刊行した。本書ではまず、学問・政策レベルを問わず包摂についての常識的思考として広く援用される「包摂の同心円モデル」の問題点の剔抉を行った。その上でこのモデルを乗り越えるアイデアを3つ提示した。第一は、悪としての排除のあとに善たる包摂がやってくるという自明化された時間的・価値的序列を揺さぶる目的で提出した「包摂と排除の入れ子構造論」である。第二は、ニクラス・ルーマンの包摂/排除論を手がかりに、両者の表裏一体性の議論をさらに突き詰めもはや問題は包摂の立ち上げにあるのでなく「平凡でないマシーン」としての人間存在の受け止めにある点を主張した「包摂その一歩手前」概念である。第三は、同心円モデルで如何ともしがたいパタナリズムを克服する議論として、マイノリティ自身を包摂の主体と位置づける目的で提示した「創発的包摂」概念である。以上の考察から、「貧困や格差に心痛め何とかそれをテクニカルに解消しようとする善意の政策・制度」としての包摂概念の相対化をはかることができた。また本年度には、ジョルジョ・アガンベンの例外状態、剥き出しの生といった概念を本研究課題に結びつけようとするチャレンジングな研究も行った。全体として当初の意図を達成することができた。
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