研究課題/領域番号 |
16K04611
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
小栗 有子 鹿児島大学, 法文教育学域法文学系, 准教授 (10381138)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 教育と環境の関係史 / 奄美群島 / 環境文化 / 猛毒蛇(ハブ) / カナダ先住民環境教育 / portraiture法 / wild pedagogy |
研究実績の概要 |
本年度は、奄美群島の集落に生きる、又、生きてきた青年たちの地域認識の獲得過程を記述するための方法開発について取り組んだ。具体的には、前年度に明らかにした人と自然の関わりの深さを描くキーストーンとしての猛毒蛇(ハブ)をめぐる指標の開発について検討する一方で、カナダ先住民環境教育研究等の成果を方法開発に活用する目的で、カナダの研究者らとの研究交流の機会をもち、研究目的と方法の妥当性について意見交換を行った(第9回世界環境教育会議では“Significance and possibility of "indigenous environmental education" research from Japanese context - new method and approach”という演題で報告し、カルガリー大学では“Introduction to “Indigenous Environmental Education” in Japan”という演題で報告したほか、インフォーマルな会合等に出席した)。カナダでは、land educationやwild pedagogyという新たな概念の下に方法論を含む環境教育研究の急速な進展がみられ、今回たとえば方法としてsocial science portraiture (Sara Lawrenece-Lightfood et.al)法を採用することの有効性など有益な情報・資料を得ることになった。だが同時に、今後の方法開発の見直しが迫られることになった。 また、人間形成の過程における自然環境との関わりの影響を読み解く方法開発とあわせて、環境教育研究としてのその意味を原理的に探究するための理論研究を行った。その中間報告は、日本環境教育学会第28回研究大会において「暮らしに埋め込まれた人と自然の関わりから「環境教育」を紡ぐ」として発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
当初の計画では、フィールド調査に入るための方法開発とその方法に基づいた調査結果について、欧米(特にカナダ)の先住民環境教育研究者らに対して報告し、検証・見直しを行う予定であった。だが、カナダで世界環境教育会議の開催に乗じて一年前倒しで途中経過の報告を行ったところ、日本とカナダの文脈の違いを考慮した方法開発の改善や見直しなど具体的な提案を受けることになった。本研究を遂行する上で、これら提案内容を参考にして方法を編み直すことが必要と判断し、結果として方法開発に時間を費やすことになった。 また、フィールドについても当初の予定とは異なる事態が発生している。一つは、「奄美遺産」として活動が展開されていた集落に入る予定だったが、共同調査を予定していたキーパーソンの急死により、活動自体が停滞、もしくは、休止する状況にある。二つには、世界自然遺産登録(2018年夏予定)に向けた活動が活発になるなか、環境省が提唱する「環境文化型国立公園」に呼応する集落活動が新たに立ち上がっている。そのため本年度は、変動するフィールドの状況をフォローすることに留まり、具体的なフィールド設定に基づく調査を実施することが、方法開発の遅れも重なり、遂行できなかった。 加えて、2018年春に大幅な組織再編に基づくダブルミッション化など個人的な理由も計画どおり進められなかった原因となった。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、夏にフィールド調査に集中して入るために、前半は次にあげる作業を進める。①まず、調査方法の設計・開発の確定である。このことについては、カナダ研究者とも連絡を取りながら日本とカナダの文脈の違いが反映されたものになるよう工夫したい。②また、本研究の理論的支柱となる現在準備中の論文、環境教育研究として人間形成の過程における自然環境との関わりの影響を読み解く原理的意味について完成させ、発表する。③フィールド地の選定については、複数の候補地の中から方法との整合性や条件を加味して、予備調査を順次進め、夏以降の本調査に備える。夏には、調査地に長期滞在し、集中的にデーターの収集を行い、冬に予定するカナダ環境教育研究者らとの研究交流に備えて、調査の分析と補足調査を進めることとする。方法開発の過程は、学会で報告し、調査結果は、カナダ環境教育研究(者)との比較検討も踏まえてとりまとめを行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、当初計画していた奄美大島および徳之島への調査関係費(旅費・謝金等)が、本格的なフィールド調査を見送ったため支出されなかった。次年度は、見送った分の予備調査(夏前)、本調査(夏)、補足調査(秋以降)の経費として使用する。
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