本年度は、奄美大島の北は旧笠利町、南は瀬戸内町の属島である請島、与路島を含む5市町村に在住する10代から90代までの多様な属性100名に対する自然環境との関わりの個人史を半構造的インタビュー(自然との身体的かかわりを明らかにする設問項目の設定)を実施し、その比較分析、および、宇検村14集落における集落自治とその担い手の時代的変遷に関する調査分析を行った。 研究成果としては、世代間と地域間の比較を併用することによる人間形成における自然環境との関わりの影響を把握する方法が見いだせた。このことにより、暮らしの中(生業や遊び、集落行事など)に埋め込まれた教育的営みの存在を明らかにし、記述することが可能になった。人間形成における自然環境との関わりにおいて、第一に幼少期の経験、第二に海や山など自然と主体との関係をつなぐ「導き役」の存在、第三に幼少期の経験の意味を客観的に見直す機会が、地域認識の獲得過程と地域の環境文化を継承する主体形成過程の解明には重要であることが明らかになった。 また、本研究を国際的な環境教育研究の文脈に位置付けるために、カナダ先住民環境教育研究、および、Wild Pedagogy概念を用いて、日本のindigenous environmental education(土着的環境教育)として試論を試み、国際環境教育会議(タイ)、Wild Pedagogies: Walking Colloquium(ノルウェー)におて発表した。これらの成果の一部は、ジャーナルPolicy Futures in Educationに"Challenges and Possibilities for re-wilding education policy in Japan"として、また、書籍『奄美大島100人の環境文化(仮称)』(南方新社)として発表される予定である。
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