研究課題/領域番号 |
16K04618
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研究機関 | 藤女子大学 |
研究代表者 |
伊井 義人 藤女子大学, 人間生活学部, 教授 (10326605)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | へき地・遠隔地教育 / 社会的公正 / オーストラリア / 教育格差 / 先住民 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、豪州・へき地小規模校の学習環境の質向上をめざした教育政策および実践を分析し、その地域や学校の特性を「強み」として活用する方策を明らかにすることにある。18年度は、現地調査を主としながら、そこで得た知見について現地の研究者、学校関係者と情報交換を行った。 現地調査ではクイーンズランド州内陸部・島嶼部の遠隔地・へき地学校を中心に訪問した。これらの訪問により、これまで数値上で確認してきた学校の現状の「実際」を聞き取ることができた。これらの訪問で明らかになったは第一に教員の残留率の向上の困難さである。このような状況を打開するために、遠隔地・へき地学校では「教育実習の受け入れ」や「本格的採用前の『仮』採用期間の設定」など工夫をこらしている。いずれにしても、都市部での生活が長い特性を持った教員志望者への対策であった。 第二に、地元コミュニティへの関与が遠隔地・へき地教員には特に求められる点である。人口規模も小さなコミュニティが多い場所では、フィッシュボール(金魚鉢)と表現されるほど、人間関係の範囲も小さい。また、コミュニティに唯一の学校であるため、様々な背景(所得・文化・特別支援)を持った生徒をすべて受け入れ、対応するなど教員の専門性においても柔軟性が重要となる。インタビューを通して、オープンマインド・レジリエンス・グリットという3つのキーワードは多く語られていた。 第三に、スクールリーダーの影響が大きという点である。訪問した学校では、20代後半から副校長や校長を務めている事例も多かった。また、教務主任(Head of Department)も、フォーマル・インフォーマルな側面から初任者教員を支援していることが明らかになった。 以上のことから、数値では表現できない、特にコミュニティとの関わりを中心に、遠隔地・へき地特有の教育環境が存在することが明確となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現地調査も順調に実施し、一定の成果を上げている。特に、連邦・州教育省が公表してきた報告書などでは把握できなかった「現実」をインタビュー調査を通して知ることができ、その分析を進めている。今後、現状と課題の整理、および政策の最新動向を把握した上で、学会発表や論文などにまとめ、公表する段階に来ている。 しかしながら、当初予定していたよりも、全国・州規模の遠隔地・へき地学校への支援体制の把握が複雑化しており、その全体像を把握できずにいる。また、全国学力調査とへき地校との関わりの立証は難しい。それらの点に関しては、今年度の課題としたい。
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今後の研究の推進方策 |
19年度は、これまでの現地調査の成果を公表していきたい。5月に世界比較教育学会(メキシコ・カンクン)、11月のオセアニア教育学会(三重大学)などで研究成果を公表する予定である。また、現在も学会誌などに研究成果を投稿中である。また、19年度には小冊子形式で、これまでの研究成果を報告し、北海道内の教育関係者に配布する予定である。 現地調査も一度実施し、政策文書の最新動向の確認を通した、遠隔地・へき地校への支援体制の全体像の把握及び昨年度訪問した学校の追跡調査も行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
18年度に予定していた小冊子での成果報告を、19年度に作成し、関係者に配布する予定としたためである。また、19年度も引き続き、交通費を可能な限り安価に抑え、効率的に予算を使用したい。
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