本研究は、北欧型の多文化保育モデルの構築を目指し、多文化環境下の子ども(0 歳から6 歳)の生活世界を分析することである。今回、在住移民の子どもの様相に着目し、保育施設・家庭・地域の三者の関係性の側面から包括的に議論した。幼少期から獲得する多様な生活スタイルや思考の成り立ちを分析することを通して、多文化・多言語環境下の保育在り方、アイデンティティー形成の実態、保育者や社会制度の課題を読み解くことができた。 初年度および2年目は、合計8週間におよぶ現地調査において、保育所や移民コミュニティーを訪問し、子どもの活動分析を実施し、保育スタッフ、保護者、為政者らへのインタビュー調査を実施した。その結果から、フィンランドの保育政策の全体像を把握でき、さらに乳幼児の生活世界を分析するための個別的な調査手続きを進めた。 最終年度は、4週間の現地調査を通し、個別の家族や集団への介入をおこないながら、生活世界の分析をおこない課題を整理した。研究により、民族意識の動態と日常的交渉の場面や保育文化のコンテクストで表現されるパターンを見出すことができた。また、パターンに従って生じる集団における意識の成立に関する意味を捉えた。さらに、フィンランド社会の家族支援について理解することを通して、パラダイムシフトの様相を明らかにした。 調査者は、これまで社会的背景を軸に、保育や子育環境に及ぼす環境のメカニズムを解明することの重要性に注目してきた。本研究において移民の中に存在するアンビバレンスを例証することで、アジア移民コミュニティーの抱くフィンランド社会における子育て環境への満足感・期待が明らかになった。一方、移民コミュニティーへの介入により、所属する文化圏で共有される「困り感」が共存することも示唆できた。本課題で得られたフィンランドのケースは、新時代の移民社会における子どもを分析するサンプルになるであろう。
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