研究課題/領域番号 |
16K04649
|
研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
佐藤 崇之 弘前大学, 教育学部, 准教授 (40403597)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 韓国 / 科学教育 / STEAM / カリキュラム |
研究実績の概要 |
平成29年度は大きく分けて4つの研究を展開し,それぞれについて知見を得ることができたので,以下に記載する。 ①文献をとおして,韓国の科学教育において求められる創意性とSTEAMの両面について分析した。特に初等学校科学では,教科書にそれらの明記はないが,3・4学年で基礎探究活動が,5・6学年で統合探究活動が区分されて明記されており,それぞれは「探究の技能」と「科学的な手続き」に基づいていたことから,中学校段階の創意性やSTEAMにつながるものととらえることができた。 ②STEAMに依拠した教育の実際について,韓国慶尚南道のある初等学校を訪問し,「粉じん教育」の授業の分析を行った。これは,単元の中で理科の要素として科学的に空気中の粉じんを分析し,それをもとにして粉じんについての対策を練ったり,粉じんに対する注意喚起のポスターづくりを行ったりするものであった。この例のように,科学科,社会科,芸術科など科目融合を行った授業が展開されていることがわかった。 ③韓国釜山広域市を訪問して,開催されていた教育フェスタに参加した。そこでは,STEAMに取り組んできた先進的な学校(先導学校)などがブースを構えており,児童・生徒の授業における成果物を分析した。それらは科学を基本的なテーマとしつつも,成果物としては設計や芸術の方面に展開されていたことから,上述②に加えて,STEAMで求める能力,STEAMでの授業展開を実際的に理解することができた。 ④上記①~③から派生する形で,韓国の科学教員養成について,文献での分析を行った。近年の国家的カリキュラムの改訂により,高等学校に総合理科的な「統合科学」の科目が新設されたことは,科学の教員養成や教員研修に多大な影響を及ぼしていることがわかった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「カリキュラムの文献分析」「STEAM教育の授業の実際」「STEAM教育の取り組みとその成果物」「科学教員養成」の3つの観点から研究を展開した。それぞれの進捗状況と総合的な進捗状況から,本年度の研究はおおむね順調に進展していると判断した。 「カリキュラムの文献分析」ではweb上の文献,本国や渡韓での購入で入手できた文献をもとにして分析し,それを教科書分析の基礎資料として用いることができた。しかし,時期的な課題として,新しいカリキュラムに沿った科学教科書は日本と韓国の両方でまだ入手不可能であったため,最終的な結論の部分では来年度以降の課題とする必要があった。 「STEAM教育の授業の実際」および「STEAM教育の取り組みとその成果物」では,1時限の授業や児童・生徒の成果物からSTEAM授業の実際を読み取ることができた。これは,昨年度までの本研究で明らかにしてきたSTEAMの理論的な側面が,実際の授業にどのように反映されているのかをとらえるために有意義なものであった。同一単元の中でどのような授業展開が行われており,その中で1つの授業がどのように位置づけられているのかについては,今後の課題となる。 「科学教員養成」については,これまでの教員養成カリキュラムや教員任用試験の歴史の中で,中等学校科学教師がどのように養成されているのかがわかった。また,「統合科学」の科目の新設に伴う方案も明らかにすることができた。これについては,次年度以降に実際の動向が明らかになることから,明確な成果としては今後の課題となる。
|
今後の研究の推進方策 |
日本と韓国の科学カリキュラムについて分析を行う。これは,初年度から継続して分析を行うことにより,データをさらに蓄積する。また,両国では現行のカリキュラムから新しいカリキュラムへの本格的な移行期にあたるため,両国の比較分析を行うとともに,移行の詳細を踏まえながら分析していくことになる。このため,現状の把握をもとにして考察を深化させ,教育政策への対応を見据えながら研究を展開する。 韓国のSTEAMの理論と実際についての調査分析を行う。昨年度(忠清南道)も本年度(慶尚南道)も,地方小規模都市を中心として授業分析を行ってきた。これについては一定の成果をえることができたが,韓国では「道」や「大規模都市」によって教育行政の管轄が異なるため,その他の地域の学校においても授業やカリキュラム,教育支援について分析する必要があると考える。これについては,来年度はソウル特別市やその近郊,釜山広域市やその近郊を対象として,高等教育機関および初等・中等学校について研究を展開することを考えている。その内容としては,1つの授業や成果物だけでなく,学校の取り組みとしてSTEAMについてどのような単元の展開を行っているのかについて分析を行うものとする。たとえば,その情報収集の段階で,上述の教育フェスタでブース出展を行った学校に着目したり,取り組みがまとめられた文献を入手したりして,エビデンスを増やしながら分析を行うものとする。 あくまで派生的ではあったが,本年度は科学教員養成についての研究のシーズを掴むことができた。最終年度である30年度は,当該年度の研究を展開するだけでなく,成果を整理しつつ研究の総括を行うことになるため,教員養成の観点からの考察もそこに含むことができるようにする。
|
次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由としては,以下の2点が挙げられる。第1に,文献分析においては,本国で入手できたもの,渡韓して購入(自費)できたものなどから,一定の成果を得ることができた。しかし,29年度も28年度に引き続いて時期的な課題があり,現行カリキュラムから新しいカリキュラムへの移行の時期にあたっているため,新しいカリキュラムに沿った出版物が入手できなかった。この分析に関しては30年度の課題とする必要があった。第2に,渡韓しての調査分析から,28年度の理論分析の成果を実際的なものとして確認することができた。しかし,その時期的な課題から,渡韓から帰国後に予定していた国内における分析(諸外国の科学教育に関する文献分析)を行うことができなかった。このため,国内の高等教育機関への出張旅費に関する支出ができなかった。 以上について,30年度の使用計画としては,本来の当該年度の研究計画に加えて,さらに研究を発展させることに支出することを予定している。たとえば,上記の文献分析および国内での諸外国の分析への使用を優先しつつ,研究成果として教員養成の観点からの考察を加えるために,外国旅費(前年度比1~2日分の追加)や文献の購入を行うことを考えている。
|