本研究の目的は、歌唱における生徒自身の内的フィードバック能力向上と生徒の心理面に着目して、中学生の自己肯定感向上に繋がる音痴克服のための歌唱指導法に関する実証的研究を行うことである。 本年度の主な研究成果として、まず、国公立小・中学校9校、計1098名を対象に行った質問紙調査の結果について分析を行った。その結果、中学生では、10.9%が「非常に音痴」に、39.3%が「少々音痴」に回答しており、合計50.2%の生徒が自分自身を「音痴」だと意識していることが分かった。また、中学生男子と女子の間に有意差がみられた。 男子を対象とした変声に関する質問と本人の「音痴」意識との関連については、「変声前」「変声中」「変声後」「わからない」と回答した児童・生徒の、自分自身を「音痴」だと思う児童・生徒の割合、平均値に有意差がみられないことから、男子が「音痴」意識を持つ直接の原因として「変声」を理由にすることは妥当ではないことが明らかとなった。 さらに、小学5年から6年にかけて、「音痴」意識を持つ児童の割合が著しく増え、特に小学5年生と6年生の女子の間で差がみられた。小学校高学年の歌唱指導においては、男子の変声期の取り扱いに留意することは広く認識されているが、本調査結果から、小学校高学年の女子の歌唱指導についても、かなり配慮が必要であることが示唆された。これらの研究結果は国際学会(The 12th APSMER)他で発表し、国内外の研究者と意見交換を行った。 また、上記調査のパイロットスタディとしても位置付けられる研究協力校A中学校で中学2年生120名を対象に実施した調査(音痴意識、内的フィードバック、声によるピッチマッチ)の各関連を分析した結果、音痴意識がある群とない群とでは、内的フィードバック、声によるピッチマッチ共に有意差がみられた。
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