研究課題/領域番号 |
16K04679
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
岡田 匡史 信州大学, 学術研究院教育学系, 教授 (30194369)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 読解ベース型鑑賞指導メソッド / ヒューホ・ファン・デル・フース / ポルティナーリ祭壇画 / 尾形光琳 / 燕子花図屏風 / ロヒール・ファン・デル・ウェイデン / 十字架降架 / 応徳涅槃図 |
研究実績の概要 |
28年度は,「読解ベース型鑑賞指導メソッドの理論的検討」を柱とした。 読解的鑑賞に必須の3要素,自由解釈,図像学的読解,テキスト準拠型鑑賞を省察し,その効果的関係付けを模索する上で,言語的解釈と密接な文化的土台を備え,かつ,身近な美的対象を扱う絵として,花を画題とする系譜に注目し,西洋からはフース「ポルティナーリ祭壇画」,日本からは尾形光琳「燕子花図屏風」を鑑賞対象に選んだ。 本研究では,「美術を通した国際理解(現行[平成20年版]『中学校学習指導要領』第6節美術に記載)」を前提に,西洋理解の枠組で西洋絵画の鑑賞学習を捉え直し,方法的には絵を見るだけでなく読む側面をも重んじ,絵を通した西洋理解の具体化と深化・拡張を試みた。と共に,東西比較も重視し,日本の絵も扱う複合型学習の検討を課題に据えた。具体的にはE.B.フェルドマン提唱の4段階鑑賞法を基に試験的に考案した8段階の授業計画で上記2作の比較照応型提示を位置付けた(計画の一部は信州大学附属松本中学校で授業検証済/対象:3年生)。 作品読解の難易度を鑑み,学習者の主要対象は中学生とした。よって,中学校美術科を念頭に置き,「燕子花図屏風」では『伊勢物語』第九段(東下り)序盤〈三河国八橋〉を,「ポルティナーリ祭壇画」では花の図像学的解釈と『新約聖書』「ルカによる福音書」2章1-20節を学ぶ場面を設け,東西比較を含む読解ベース型鑑賞指導メソッドを錬磨する中で,鑑賞題材開発及び授業検証と理論研究とを可能な限り連動させた探求を目指した。本研究は論文化し,『美術教育学研究(大学美術教育学会誌)』第49号に投稿,査読を経,掲載に到った。 中盤以降は感情的主題(今回は悲歎)を掲げ,ウェイデン「十字架降架」と「応徳涅槃図」が対峙する形での異文化比較を含む題材構築に取り組み,研究成果を第39回美術科教育学会(静岡大会)で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
◎3年計画中盤に位置付けた鑑賞題材開発を,今回精緻化を狙う理論面に適用する着想を得,具体的な題材検討を前倒しし本研究全体の基盤に据える方策を取ったことで,読解的鑑賞の理論&実践両面をバランス良く研究できるようになり,この相互連関が結果的に理論研究推進に役立ったから。 ◎これまでの研究蓄積を礎に読解的鑑賞では必須と判断した3種メソッド,自由解釈,図像学的読解,テキスト準拠型鑑賞を統合的に扱うための理論的検討が進み,読解ベース型鑑賞指導メソッドの可能性を拡げられたから。 ◎鑑賞対象候補作品(もしくは,関連諸作)の収蔵先現地での実物確認(28年度春季開催『<特別展>国宝 燕子花図屏風―歌をまとう絵の系譜』根津美術館等)が行えたことで,鑑賞指導理論構築に要す厚みあるベース的体験が得られたから。 ◎附属教諭の協力的援助を得,読解的鑑賞理論の改善を促す授業検証が可能となり,理論&実践間に相互評定的フィードバックを形成できたことが理論研究の実質的進展に繋がったから。 ◎国語科との横断的取り組みの意義が視野に入り始め,絵の読解を一層幅広く思考できるようになってきたから。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の中心軸は「美術を通した西洋理解」だが,読解ベース型鑑賞指導メソッドを適用せんとする西洋絵画をただトップダウン的に紹介する授業形態では,たとえ絵に西洋特有の歴史・文化・伝統等が凝縮されていても,日本の中学生は鑑賞指導自体に強要感・威圧感を抱き,難解さが増せば飽きもし,遂に西洋絵画が嫌いになる等,却って逆効果に陥る。 そこで,題材内で主題的共通項等鑑み日本美術の対比的配列を創案し,メインの西洋絵画の読解的鑑賞を東西比較が補い,延いては見て読む楽しみを倍増でき,鑑賞への関心を強く喚起でき,学習意欲がボトムアップ的に湧き得るようにすべく,理論&実践が相互補完する研究を整備する。研究成果は堅実にまとめ,学会誌投稿や学会発表を通じ広く公開できるよう努める。 H29年度では中核的課題となる鑑賞題材開発を中身濃く拡充するに当たり,絵は画像であると同時に,時間的・環境的・人為的諸変化を被り,重さ・匂い・手触り等も有す物質でもあるとの基本認識に立ち還り,また,そのイメージは独立的に存立せず,生活・社会,地域的嗜好・美意識,信仰も含む文化的伝統等を背景として複合的に成り立つ点を踏まえ,原則的姿勢として,鑑賞候補対象の実作の現地確認を徹底し,リアルな西洋理解を日本の学習者に運び得る読解的鑑賞の構築を図り,可能な範囲で授業検証も行う。連動して絵を読む活動の重点化を図り,西洋理解教育の一翼を担う鑑賞題材開発を進展させる。
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