30年度は,「読解ベース型鑑賞指導メソッドを適用した鑑賞題材の組織・構築」を柱とした。 29年度のレンブラント「夜警」の読解的鑑賞に関する研究(前篇投稿済)を前進させた。7段階(計15項目)の鑑賞学習モデルの内,前篇で対象とした第1・3段階(観察,解釈)に続き,第2・4・7段階(形式的分析,知識補填[情報提供],補充課題[5種を提案])を提起できた。前・後篇通じ,「夜警」を多視点より組織的に読み解く鑑賞題材を構築し得たと思う。後篇も『美術教育学研究(大学美術教育学会誌)』に投稿し,査読審査を経,第51号に掲載された。 上記題材では,西洋理解の押し付けとならぬよう配慮し,美術文化を複眼的にバランスよく捉える力を養うべく,扱いは小さかったが東西比較を組み入れた。2作の共通項として出撃シーンを据え,平安末期の絵巻『伴大納言絵詞』(国宝)中の一場面,「伴大納言追捕のためその邸に向かう検非違使の一行」を選定した。題材構築の検討途次,東西比較が「美術を通した西洋理解」に有益との認識を深めた。フース「ポルティナーリ祭壇画」と尾形光琳「燕子花図屏風」の比較鑑賞を扱う28年度の論文(『美術教育学研究(大学美術教育学会誌)』第49号掲載)を皮切りに,口頭発表6件(各期2件ずつ発表)で東西比較を扱う諸種研究成果を示せ,「美術を通した西洋理解」の主幹的メソッドの一角として東西比較を推進すべきと現在考えている。 本研究期間に小・中『学習指導要領』改訂を経験し,研究基盤のシフトチェンジの微調整を迫られる中,特に留意した1つが,絵のディテールの読解を促す細部視認と関わるICT機器活用である。上掲「夜警」題材で取り上げた細部視認の研究を進展させ,肖像画と聖母子像を二副対に仕立てたメムリンクの小規模祭壇画の細部視認ベースの読解的鑑賞も試案ながら示せた(『信州大学教育学部研究論集』第13号掲載[無査読])。
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