本研究は,数学学習における「学習者に数学的概念の例をつくらせる」という教授方略を構築することを目的としている。具体的には,(1)学習者が数学的概念の例をつくる場面に焦点を当て,実践的内容を分析すること,(2)学習者がつくる数学的概念の例の質に関するルーブリック(評価指標)を作成すること,(3)学習者がつくる数学的概念の例を活用する教材を開発することの3 点が目標となる。(1)については,昨年度に引き続き,本研究の先行研究に当たり実践的内容を検討した。また,本研究に関連するテーマとなるTask DesignやVariation Theory,Lesson Studyについて資料を収集し,最新の研究動向を探った。特に,Lesson Studyについては,イギリスのマンチェスター地域を訪れ,大学の研究者や学校現場の先生らから直接情報を得ることができた。(2)については,兵庫教育大学の数学専門の研究者2人,数学教育専門の研究者1人とともに,一次関数の深い概念理解を捉える枠組みをつくるため,数学的概念の例と定義の関係について検討した。ただし,数学的概念の例の質を評価するためのルーブリック(評価指標)作成においては,その視点を整理することができず,今後の課題となった。(3)については,早稲田大学の数学専門の研究者1人,博士後期課程の院生3人の協力のもと,昨年度投稿した「数の拡張に応じた長方形の面積概念形成に関する教材開発」についての論文を見直し,再投稿した。以上のことが今年度の成果となる。 本研究の期間全体を通じては,平方根の概念形成を促す教材開発を3つ行えたこと,例の質を評価する方法に見当が付いたこと,本研究に関連する新たなテーマを見出すことができ,国際的な共同研究に向けた足掛かりを得たことが,主な成果となる。
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