本研究は、米国西部地区における多文化音楽教育の形成過程を明らかにすることを目的としている。世紀転換期、米国では、ヨーロッパのみならず南米や東欧、南欧、アジアなどからの大量の移民が流入していた。そうした社会的状況などに加えて、学校教育では生活主義・経験主義の理念に基づいた教育が提唱・実践されていた。その中で、音楽科では、多様な人種や民族の音楽が用いられるようになる。とりわけ、西部地区では、その歴史的地理的条件から先進的な教育が行われた。本研究では、1960年代までの西部地区における多文化音楽教育の形成過程を概観した。研究初年度には、過年度までの研究成果と資料収集状況を確認し、研究計画を策定した。その後、西部地区の中でも、とりわけ先進的な教育実践を行っていたカリフォルニア州を中心として研究を進めた。米国の大学や教育施設において研究調査を行い、資料を収集し、教育開発の歴史的展開やその理論的基盤、教育実践の具体的な在り方について多文化音楽教育の視点から検討を行った。1930年代にカリフォルニア州初等音楽教育委員会によって提案された音楽学習指導をはじめとして、各都市や学校、研究者らによって活発に行われた様々な教育改革に関する資料などを発掘し検討した。また、州によっては、音楽科で使用すべき教科書のいくつかを選定しており、それについても考察した。1960年代までの西部地区における音楽科の歴史的展開を概観しながら、多文化音楽教育が形成されていく過程を明らかにした。
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