本研究全体の目的は,次の3点である。第1の目的は,前科研研究の成果として研究代表者が提起した「数学的意味と数学的表現に関する相互発達モデル」(相互発達モデル)に関する理論的精緻化を図ることである。第2の目的は,筆算のような慣例的表現が導入される教材に焦点を当て,理論的に精緻化された「相互発達モデル」に基づいて,教材ごとに実践的課題を具体的に導出することである。第3の目的は,導出された実践的課題をふまえながら,「相互発達モデル」に基づいて具体的な授業改善案を策定し,教授実験を通じて,授業改善案の有効性,妥当性を実証的に検証することである。 以上のような3つの研究目的のもと,平成30年度の研究では,主として第3の目的にかかわる研究を行った。具体的な研究成果は,以下の通りである。 平成29年度後半に実施した小学校第3学年「かけ算の筆算」の教授実験(計12単位時間,1単位時間45分)について,「かけ算の意味と筆算との相互関係」という視座から分析を行った。その結果,(1)かけ算に関する多様なやり方を共有しながら,十進の原理に基づくかけ算のやり方の一般性,能率性を十分に理解させること,(2)繰り上がりのないかけ算から繰り上がりのあるかけ算にかけて,慣例的な筆算を導入する適時性を検討すること,といった視座からの授業づくりの有効性や重要性が実証的にも確認できた。なお,こうした分析結果については,論文としてまとめ,公表する予定である。
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