研究課題/領域番号 |
16K04719
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研究機関 | 京都橘大学 |
研究代表者 |
佐野 仁美 京都橘大学, 発達教育学部, 准教授 (10531725)
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研究分担者 |
小畑 郁男 福岡女学院大学, 人文学部, 非常勤講師 (20149834)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 創造性 / 音楽づくり / 即興 / 教授法 / 幼稚園教員養成課程 / 小学校教員養成課程 |
研究実績の概要 |
教員養成課程の学生を対象とした教材としては、日本音階による旋律断片を制作し、それを選んで組み合わせることにより、無理なく音楽をつくることができる即興練習曲を作成した。即興を行うことにより、教員養成課程の学生が自ずから日本音楽の音の動きや核音を用いた終止に慣れることも目的としている。その一方で、持続する低音の上にジャズなどに見られる様々な旋法による旋律断片を制作し、即興的にそれらを選ぶ練習曲を考案した。これらは学生同士で演奏しあえるものである。さらに、和音の音から旋律を発展させる方法を例示し、学生が和音進行のスタイルに慣れ、西洋音楽の和声に合わせて旋律をつくるための練習曲を制作した。上記について、学生への指導を行い、その結果をフィードバックさせて修正した。 小学校の音楽づくりにも使える旋律づくりの教材としては、日本古謡をもとに都節音階の旋律を律音階に変化させたり、旋律を発展させたりする教材を考案した。音型を選ぶ過程で楽曲全体のまとまりを感じ取ることができるように留意したものである。 本年度は研究のまとめとして、今までの研究成果を整理し、教員養成課程の学生や現場の教員を対象とした図書を出版した。その中では、記憶のメカニズム、時間的なまとまりの捉え方といった、人の特性を背景とした音楽表現理論を提唱し、それをもとに音楽の構成面から、演奏表現、鑑賞、創作についての考え方が自然に無理なく身についていくように工夫した。まず最初に小中学校の教材を表現、鑑賞する方法を示し、音楽の仕組みを具体的に理解できるように工夫した。その後、音楽的なイディオム(慣用句)を身につけるために、音楽の断片を選んで組み立てるというステップを導入した。そのことにより、音楽を総合的に捉えるとともに、創作に導く過程をスムーズにすることを目指した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の予定に従い、日本音楽の音階やジャズなどに見られる様々な旋法を用いた多くの即興練習曲を作成した。また、鍵盤楽器を用いて教員養成課程の学生が和音進行のスタイルに慣れ、和音の音から旋律を発展させる方法を例示した練習曲を制作した。 今までの研究成果をまとめて、『音楽を教えるヒント〔表現・創作・鑑賞〕―小中学校接続を視野に入れて―』(ハンナ、2020年)を出版した。その中で、小学校、中学校の共通教材やよく用いられる教材を取り上げ、分析してメロディの構造を明らかにし、音楽表現の理論化を試みた。そこで明らかになった要素をもとに、リズムやメロディの断片を選んで無理なく創作へと導くように工夫し、リズム・アンサンブルのための即興練習曲やリコーダーによるグループ即興練習曲、日本音階や様々な旋法を用いた即興練習曲などを掲載した。教員養成課程の学生や現場の教員が創作を通して音楽の仕組みを実感し、音楽語法を身につけ、部分的な要素の関連性に目を向けて音楽を構造的に捉えられるようになることを目的にしたものである。 その一方で、研究成果発表として、日本人がどのように西洋音楽を参考にして西洋音楽と日本音楽の要素を融合させて作品をつくったのかを例示するレクチャーコンサートを2020年3月に予定していたが、新型コロナウイルス感染症拡大防止策に伴い、延期せざるを得なくなった。 また日本古謡を例に挙げて、替え歌づくりから旋律づくりへと発展させる音楽づくりの教材を考案し、2020年3月に小学校で実践する予定であったが、新型コロナウイルス感染症の拡大防止のために、授業実践が延期になった。
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今後の研究の推進方策 |
(1)日本人がどのように西洋音楽を参考にして、西洋音楽と日本音楽の要素を融合させて作品をつくったのかを例示するレクチャーコンサートを開催し、音を交えた形で研究成果を発表する。西洋音楽の例としてはベートーヴェンらの古典派、ショパンらのロマン派、ドビュッシーらのフランス近代音楽を取り上げて分析する。そして、彼らの曲の中のどのような要素が日本人作曲家の作品の中でどのように取り込まれ、融合していったのか、その作曲技法を具体的に示す。 (2)現在までに制作したリズムの即興練習曲、日本音楽やポピュラー音楽で用いられる様々な旋法による旋律断片を選ぶ形の即興練習曲など、数多くの教材を用いて教員養成課程の学生を指導する。その際、学生に音楽的語彙を習得させるとともに、音楽の仕組みや構成に気づかせ、そこで得られた気付きを表現や鑑賞教材の指導につなげることに留意する。また、小学校の児童や教員養成課程の学生が身近な教材を用いて替え歌をつくったり、そこから旋律づくりへと発展させたりする教授法を考案する。その結果をフィードバックさせて、教材を修正し、指導方法や指導内容および経過から見えてきた点について、学会や研究会で発表する。2020年度は日本音楽表現学会における発表を予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 研究成果をまとめた図書の出版が2020年3月末になったため、出版経費の支払いが2021年度に持ち越された。また、日本人がどのように西洋音楽を参考にして、西洋音楽と日本音楽の要素を融合させて作品に昇華させていったのかを示すレクチャーコンサートを2020年3月に予定していたが、新型コロナウイルス感染症拡大防止策にともなって延期になり、その経費が持ち越された。共同研究者とは頻繁にメール等で連絡を取り合うとともに、研究をスムーズに進めるために年4回の会議を予定していたが、そのうち1回は学会の前後に行い、交通費、宿泊費を節約することができた。また、1回は新型コロナウイルス感染症拡大防止策にともない、延期になった。 (使用計画) 2021年度には図書の出版経費を支払う予定である。また延期になったレクチャーコンサートを9月に予定している。会場費、ピアノ等の設備使用料、調律費、チラシやプログラムの印刷費、人件費、交通費が必要である。加えて、研究の遂行のために、延期になった会議を行う予定である。研究代表者と研究分担者の住居が離れているため、交通費、宿泊費が必要である。
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