本研究は、若手教師を対象に、優れた体育授業実践を可能にする彼らの実践的力量形成の過程を実証することが目的であった。 被験教師の介入3年目の結果については、以下のような点が明らかになった。最も高い割合は「コミットメント戦略」(教師-児童間の相互作用活動)であり、23%を占めていた。次いで、「モニタリング&コミットメント戦略」(児童の動きの診断・評価と相互作用の重複活動)が13%、「コミットメント&シグナリング戦略」(相互作用と課題解決ポイントの示唆の重複)が11%の順に多かった。これより、コミットメント戦略(相互作用戦略)を基軸に授業を展開していたことが明らかになった。これには、今回の単元が「ジャベリックボール投げ」(陸上運動領域・投の運動)であったことが影響しているものと考えられた。すなわち、児童からすれば、新しい運動教材であり既習経験がないことによる戸惑いや不安が垣間見られ、それらに対する被験教師の児童への積極的な働きかけが多く行われていたことによるものと推察された。 他方、介入1年目と3年目の教授戦略の発揮の経年変化をみてみると、1年目に比して3年目は「インセンティブ戦略」(学習課題の明確化)と「シグナリング戦略」(課題解決ポイントの示唆)の割合が高まっていた。さらに、これらの教授戦略を単一で発揮するより、他の教授戦略と組み合わせて重複して発揮していたことが増えていた。これらのことから、次のようなことが推察される。一つは、被験教師が児童の学習成果を高める授業を展開するためには、課題(めあて)の意味をいかに理解させるかの重要性を認識し、そこに時間をかけるようになったことである。もう一つは、課題解決場面における児童の課題(めあて)の自立解決につながる働きかけが増えたことである。これには、指導経験の積み重ねによる被験教師の「実践的知識」の向上が影響しているものと考えられた。
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