2019年度においては,まず,昨年度実施が適わなかった海外の美術施設に赴いて行う研究調査を実施した。訪問先は,芸術振興政策が進み且つ芸術教育の充実と共に個人主義のための教育が他国に比して確立していると判断される,北欧のフィンランド,スウェーデン,ノルウェーの3ヵ国4地域とした。具体的には,それらの地域の美術館,民俗博物館,図書館等を主な調査対象とし,作品の形の観点に基づき,形の学習用教材のための資料及び画像の収集を行うと共に,社会教育施設における形の学習の方法及び内容についての調査・分析を行った。その結果,何れの施設においても,色と共に形に着目を促す説明に主眼がおかれ,造形的な基礎に関しても,展示物や配布物,更には端末機器を通して言葉や絵図を用いて提示していることが分かった。 他方,学習指導要領に掲げられる「造形的な見方・考え方」の観点から,形の学習法,特に「形に基づく見立て」に関わる学習法の調査及び考察を行い,その結果に基づき開発した教材を,大学生を対象に実施・分析して,授業における有効性を検討した。併せて,美術科の学習指導要領では,今日の現代社会において最も重要視される「自己実現」を目標としていることを承け,自己実現を達成するために必要な形の学習の観点からも指導法の研究を行った。 加えて,(制作を業とせず、描画活動の経験が中学校迄の)成人が継続して取り組んで描く絵に現れる形の調査及び分析を進めた結果,その成人の描画の変化については,一定の時期迄は子どもの発達過程に重なるが,その後は異なる展開を見せることを明らかにした。これは,成人の場合は,{形成(訓練と教育),多様な変質(社会的条件等)}に関する蓄え(個性を構成する要因)が,創作活動における行き詰まり(危機)を乗り越えるために活用出来る手段となっていることを,その作品の展開からの分析により明らかにした。
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